Kachi

まともじゃないのは君も一緒のKachiのレビュー・感想・評価

3.8
【ふつうを問い直す小さな物語】
※なんとなく漢字の普通と書くとカッチリし過ぎる嫌いがあるため、作風に合わせてひらがな表記で書き進める。

拗れた予備校教師と女子高生が織りなす、ある夫婦を巡る話。成田凌が演じる、数学予備校教師のズレた感じ(笑いのツボや笑い方そのものがキモい)も、清原果耶が演じるちょっと背伸びした女子高生のあの感じも、すごいリアルだった。

清原果耶は、朝ドラ(おかえりモネの前のなつぞら)から注目していたが、今回も好演ぶりは健在。

物語のキーワードは「ふつう」。実際に脚本を見たらゲシュタルト崩壊しそうなほど繰り返される「ふつう」を見てる私たちも再考させられる。私たちは、日常生活を省エネで過ごすために、「ふつう」の中に安住する。「ふつう」があるお陰で、私たちは深く物事を考える対象を限定することができる。つまりは、選択と集中のための「ふつう」は、日常生活の知恵でさえある。

他方で、あまりにも思考を停止しすぎて、重要なはずの「生き方」までも同調圧力に屈して自我を曲げてしまうこともある。

成田凌演じる数学予備校教師が「あなたがふつうでいいなら、それでいいんです」という諦念を表明するシーンや「ふつうはもう懲り懲りだ」と開き直るシーンは、「ふつう」という枠に嵌められることに疲れた人たちにとっては福音であるように感じた。

かくいう私も、「ふつう」に疲れてしまった人間の一人であるという自覚があり、メインの二人の世の中に対する覚めた見方に妙に納得してしまった。
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