ヨーク

ナイツ&ウィークエンズのヨークのレビュー・感想・評価

ナイツ&ウィークエンズ(2008年製作の映画)
4.0
この『ナイツ&ウィークエンズ』は今回日本での初公開となったそうなのだが本作はかの『レディ・バード』と『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』最近では『バービー』でヒットを飛ばしたグレタ・ガーウィグが25歳の時に撮った長編デビュー作である。25歳で長編デビューしているというのも凄いもんだが、その若さは作品内でも大いに発揮されている映画だった。
いやマジで、観てるこっちが恥ずかしくなるほど若い映画だったが、正直直近作である『バービー』よりも大分好きな映画だった。いやー、デビュー作ってのはこうじゃないとなぁ! となる初々しさと共に描かれている物語の青臭さなんかもすっかりおじさんになった今の俺が観たら懐かしいなー、って感じになるのだが作中の人物、そして彼らと同じくらいの年齢であった当時のグレタ自身に近い20代半ばくらいで本作を観たらめちゃくちゃ感情移入してしまっただろうなと思う。個人的には遠距離恋愛経験ないのにめっちゃ分かるわー、てなってしまったもん。まぁそういった風情の若さというのは映画の作り自体としては未熟でインディーズ的な部分もあるわけだが、それも魅力になっているような作品だったと思いますね。
お話はかなり単純。監督であるグレタ自身が演じる20代半ばくらいの女性と同年代の男がそれぞれニューヨークとシカゴに住んでいて遠距離恋愛をしているという物語である。なんか月に一回か二月に一回くらいの頻度でお互いに会っているようで、劇中では主にその貴重な二人の逢瀬が描かれる。まぁぶっちゃけそれだけの映画なのだが、それがまた瑞々しく描かれてるんですよね。
上記したように俺は遠距離恋愛の経験はないし、あまり長期間にわたって女性とお付き合いした経験もないのだが好きな相手と一緒にいるときのひたすら無邪気な幸福感と共にそろそろバイバイする時間が近づいてきたときの今の幸福が永遠に続かないという理不尽さへの呪詛に近い感情というのはとても理解できる。その喜びと失望が女性側からの視点でも男性側からの視点でもよく描かれていてグッときてしまったな。
ほとんど説明的なセリフとかがない映画(それもまた若々しい感性だ)なので断言はできないのだが、途中で一年後に飛ぶところでおそらく大きな変化があったと見られ(ちょっとウトウトしていたので俺が観逃しただけの可能性大)互いに別の人生を送っている風になっているのだが、そこから久しぶりに再会した二人のやり取りや雰囲気もとても良かった。その久しぶりに会えて単純にうれしいという感情と同時に、もうあの頃の二人ではないというあまりにもどうしようもない不可逆性を感じる感じが何か超切ないんですよ。重要な部分が描かれない(繰り返すが俺が寝てただけの可能性大)映画なんだけど、2人が道を別ったのも裏切りがあったとか嫌いになったとかそういうことではなく、依然好きではあるんだけど何か恋人としてはやっていけなくなったなぁ、という非常に曖昧で当事者にしか分からないような感覚だったのではないだろうか。もちろん遠距離という壁はあっただろうが。
でもそういうことってあるかあらね。別に恋愛関係に限ったことではなくて友人同士でも、なんかもうあんまりつるまない方がいいかもな…ってなるようなときはあるんですよ。特に20代くらいの頃はお互いの生活が劇的に変化したるもするし、喧嘩したとかそういうことじゃないんだけど疎遠になっていくということはある。本作はその空気感がよく描かれていたなぁと思いますね。んで久しぶりに会ったときに、またあの頃みたいに戻れるかなぁ、と思うんだけど結局ダメだねっていうあの悲しさ。バスローブのシーンは滑稽さと切なさが凄かったな。もうあのライオンで喜んでいた頃とは違うのだ、っていうどうしようもなさ。そこはかなりグッときてしまった。
そういう感じで若々しくも切ない青春恋愛モノという感じなのだが、かっちょいいアート映画風なのを志向したスタイルではあるものの娯楽映画としては悪い意味で粗削りすぎる部分もあり、オチも弱いといえば弱いので作り話としての出来の良さを求めたらイマイチというところにはなるだろう。後発作品と比べたら単純にグレタ・ガーウィグの技術がまだ未熟ということもあるだろう。でも繰り返しになるが個人的には最新作の『バービー』より好きでしたね。スコア的には0.1ポイント劣っているが好きさでは勝っています。
ここから10年近くを経て様々な作品に役者や脚本として関わりながら、それが『レディ・バード』へと結実したというのはすげぇ腑に落ちると思わせてくれる映画でしたね。土地との別れと人との別れは人間を成長させる、というのはグレタ・ガーウィグ作品の根本にはあるのではないだろうか。やはりデビュー作というものにはその作家の資質が表れるものである。グレタ・ガーウィグ好きとしてはそれを確認できただけでも非常に収穫のある映画でしたね。
面白かったです。
ヨーク

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