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ドント・ルック・アップの会社員のレビュー・感想・評価

ドント・ルック・アップ(2021年製作の映画)
3.0
半年後に地球を壊滅させる巨大彗星が衝突することを突き止めた科学者。必死に声を上げ衝突を回避しようとするものの、政治家や世間はそんな声を聞く様子もなく、国内には分断が拡がっていく。
情報があふれかえる中、自分にとって都合のいい部分しか聞き入れず対話を避ける、他者の声に耳を貸さない現代社会を痛烈に皮肉ったブラックコメディ。


名だたる豪華俳優陣が名を連ねた本作は、公開一週間の視聴時間が歴代最高に達するという、まさにNetflixの覇権を象徴するような作品である。
巨大彗星による地球壊滅の危機は、明らかに近年高まりを見せつつある地球環境問題を意識している。また財界と結託して積極的に国内の分断を図る政治家の姿は、トランプ前大統領以外の何物でもない。SNSを通じて世論が瞬く間に形成され、また激しく乱高下する様は、現代の我々が置かれている環境を描いている。
結末の描き方は神秘的で、また後日談までユーモアに溢れており、全体として娯楽作品としては良作なのかもしれない。


しかし、巨大彗星の衝突という世界的な危機でありながら、終始一貫してアメリカ国内の政治的問題ばかりが取り沙汰される点が、「海外の」視聴者としては最後まで気になる点であった。
深刻な地球環境問題やポピュリズムが蔓延する社会の分断の問題などがすべて、アメリカ一国における政治問題へと矮小化されてしまっているように見受けられるのである。
その意味においては、従来のような英雄譚やハッピーエンドではない結末に真新しさを感じるというよりもむしろ、これまでのアメリカ的価値観を見事に踏襲した作品に過ぎないという誹りを免れないであろう。


仮にブラックユーモアを通じて現代社会にメッセージを投げかけようとするのであれば、アメリカ一国主義的な視点ではなく、世界的な連帯について、いかばかりかの希望を持たせる描写が必須なのではないだろうか。
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