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なぜ君は総理大臣になれないのかの会社員のレビュー・感想・評価

4.0
政治家に必要なものとは


現在は立憲民主党に所属する衆議院議員、小川淳也を追ったドキュメンタリー映画。2003年に「地盤・看板・カバン」なく国政選挙に挑んだ若き情熱家を、約17年間追い続けたものだ。
何よりもまずタイトルが秀逸である。彼がなぜ総理大臣になれないのか、その答えを探していくうちに、政治家という存在について、考えさせられる。


彼の選挙区は香川1区、現デジタル改革担当大臣である平井卓也がどっしりと構える区である。平井は三代続く政治家の家系であり、親族は地元の新聞社を経営している。選挙の強さに因果関係がないわけはない。
そんな強固な地盤に食い込もうとしたのが、齢30半ばの小川だった。総務省官僚時代の経験から政治家を志し、初の選挙では敗れたものの、その頭脳と情熱を活かし次第に支持者を獲得していった。そして2009年政権交代がなされた民主党政権時代は、初めて比例ではなく小選挙区で平井を破り当選を果たし、また総務大臣政務官に抜擢される。しかし第二次安部長期政権が始まり苦しい立場に置かれる中、次第に彼の弱点が露呈していく。


本作の前半はこれまでの歩みを、後半は2017年10月の総選挙の模様を丁寧に描く。
この選挙において、彼を取り巻く環境は激変していた。当時民進党は分裂状態に陥り、一部議員は小池百合子率いる希望の党との合流を模索していた。側近として支えていた前原誠司に歩調を合わせ飛び出した小川を待っていたのは、勢いに乗る小池百合子の「排除」発言であった。有象無象の野党議員が合流する烏合の衆となることを避けるためか、小池百合子は思想や信条が一致する議員しか受け入れないとけん制したのである。
政党に所属しなければ力を行使することが出来ないことを痛感していたことから安易に無所属で出馬するわけにもいかず、結果として希望の党の公認候補として出馬することを決めた。
しかしそれは小川のこれまでの歩みに一部反することでもあり、地元の有権者から心無い言葉を浴びせられるシーンもあった。彼の抱える葛藤も、ありのまま描かれている。

本作で描かれているのは政治家小川淳也のみではない。それを支える周囲の人間の苦悩や葛藤もまた、描かれている。
妻は、日本の未来よりも幼い目の前の子供のために生きてほしいと思う一方、妻として夫を支えると決めた。またその子供は今や街頭に立ち選挙活動を手伝うようにまでなった。両親や友人もまた、しかりである。政治家を支える人々の見えない苦労を知ることが出来る。


情熱と頭脳を持っていても、政治家としてのしたたかさや野心にいまいちかける彼のことを、政治家に向いていると評価する人間は誰一人としていない。
しかしだからこそ、そういう真っすぐな彼に託してみたい、そう素直に信じる支持者の本音が所々に表れている。特に井出教授の応援演説は感動の余り、周囲の人間皆が涙する名演説であった。
秋に控える衆院選総選挙、この映画が少なからず得票率に影響を与えることは間違いないだろう。


有権者は一人一票を持ち寄り、これからの日本を託す政治家にその思いを込めて票を投じる。長い年月をかけて人類が編み出した議会制民主主義の希望を改めて感じた。
支持政党にかかわらず、自分の持つ一票の重みが変わるような、素晴らしい映画であった。
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