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ヤクザと家族 The Familyの会社員のレビュー・感想・評価

ヤクザと家族 The Family(2021年製作の映画)
3.0
血のつながりよりも強い、絆


町の不良だった主人公の父親は、覚せい剤に深く関わってしまったことで命を落としてしまった。そのせいで暴力団や覚せい剤に対する否定的なイメージが焼き付いてしまう。しかし、ある事件に巻き込まれた際、命を救ってくれたのは、他ならぬ暴力団だった。主人公は始めは反発しながらも、組長にどこか父親らしさを感じ、契りを交わす。
時は2000年初頭、暴力団に対する締め付けが本格化しつつある時期だった。地域の再開発計画を発端として縄張り争いが顕在化してしまう。主人公は順調に組織の階段を駆け上がっていたが、その抗争の端緒となった責任を感じ、若頭の罪を被って14年の刑期に入る。
そして出所した彼を待ち受けていたのは、以前とは全くと言っていいほど変化してしまった、暴力団を取り巻く非常なまでの社会であった。


暴対法が成立したのは1992年、徐々に暴力団に対する締め付けは強まり、シノギの手段を次々奪うほか、保険や携帯電話などの生活インフラから排除することで、勢力を大幅に削ぐことに成功している。
一方で闇金融や最近では振り込め詐欺など、シノギによる稼ぎそれ自体を目的に据えて緩やかな連帯を保つ半グレ集団の勢力拡大が著しい。今や、暴力団に属するメリットは極めて薄いのである。
主人公が暴力団の世界に足を踏み入れたのは、組長に父親らしさを見せつけられたことが大きいように見受けられる。また他の人間からは義理人情や仁義を重んじる男としての道への憧れという発言も出た。確かに以前はそうした要素が少なからずあったのだろう。
しかしシノギの手段を奪われ惨めな生活を送らざるを得なくなった現代、理想だけでは生きていけず、覚せい剤ビジネスに手を出したり、組を抜けたりするものが後をたたない。


本作で描かれるのは、暴力団組織の衰退だけではない。
一度組に入った人間は、足を洗ってから5年間は、暴力団に属していた人間と同様の非人間的な社会的制裁を受ける。いわゆる「5年ルール」を終えて日常の幸せを手に入れたとしても、現代のSNS時代、人々の過去はいとも簡単にインターネット上に晒され、拡散される。主人公や彼を取り巻く人間もまた、そうした主体のない社会的制裁に苦しめられることとなる。

罪を犯した人間に対して真っ当な裁きを与える司法の存在とは別に、一度足を踏み入れてしまったが最後、生涯ついて回る十字架のような重しの存在をまざまざと見せつけられる。
やり直すことが出来ない社会において、彼らはその行き場のない怒りや悲しみを、他の誰かにぶつける事しかできない。
そうした極めて恐ろしい時代に私たちは生きているのである。
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