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福田村事件の会社員のレビュー・感想・評価

福田村事件(2023年製作の映画)
4.0
朝鮮人差別が元で起きた集団虐殺という悲劇。この映画に描かれていることは100年前、実際に生じた出来事である。
観賞後気が滅入り、しばらく立ち上がることが出来なかった。


実際に朝鮮人が悪事を働く様子を見た者は、作中一人もいなかったのではないか。中には差別感情に疑問を持つ者もいる。そしてそれを口に出し、説得しようとする者もいる。
しかしそうした言葉は響かない。それぞれの胸に根を張る感情はそう簡単に拭い去ることが出来るわけではない。
日本人であるという証拠が出ても、次の瞬間には別の側面に目が向かう。誰かがかばっても、それまでの立ち居振舞いの一部を切り取ってその言葉の価値を貶める。


同質的な集団の中に一度火がついてしまうと、それを止める術はないのだろうか。空しさにうちひしがれ、止めることが出来ず何も出来なかった劇中の善良な登場人物に自分を重ね合わせて絶望する。
そこでふと気付く。いや、そうではない。そもそも自分が村の住民であれば、声をあげるどころか竹槍を握り締めていたかもしれないのである。
先進的な価値観を持つ女性新聞記者の存在が、我々に客観性を与えてくれる。作中において極端に正義を貫き、半ば浮いてさえいる彼女は、我々の価値観を現代に引き戻してくれる役割を担っている。しかしそれはむしろ、我々がこの時代とは隔絶した現代において映画を観賞している、よそ者だということを強調することに繋がるのである。


それだけではない。翻って見れば、流言飛語により傷ついている人は100年前だけでなく、現代にもいる。むしろ個人が気軽に発信出来る時代、その影響力は増しているとさえ言えるかもしれない。
苦々しい表情をしながら映画館のイスに座っている自分は、彼らを見てみぬ振りをしてはいないだろうか。手をくださずとも、周囲に合わせてその手に竹槍を握りしめてはいないだろうか。
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