カリカリ亭ガリガリ

ドント・ルック・アップのカリカリ亭ガリガリのレビュー・感想・評価

ドント・ルック・アップ(2021年製作の映画)
5.0
21世紀版『博士の異常な愛情』。もはやコメディ映画のようなバカ現実それ自体を、デフォルメや寓話化するというよりも実はそのまんま描写していて、鑑賞中はめちゃ笑えるけど、観終わると背筋が凍る……とは言え、オールスターキャストのディザスター映画で祭り感あるし、人類滅亡の危機が目の前にあろうとも、ひたすらバカの極みを露呈しまくる人間の愚かさにちょっとほっこりすらした。こんなにも「生き残ってくれ!」と応援できない人類滅亡映画があっただろうか……。

ほとんどコロナ禍やヘイトクライムやトランプ政権への風刺で埋め尽くされていながら、スマホ作ってるハイテク企業の名前が"ブッシュ"をもじった"BASH"だったり、そのCEOが、アップルのスティーブ・ジョブズやテスラのイーロン・マスクやAmazonのジェフ・ベゾスをフュージョンさせたかのような、CEOの嫌なところ結晶体みたいな人物だったり、とにかく攻撃的な引用が絶えない。大統領執務室に飾ってある肖像画がよりによってニクソンなのも笑った。

Qアノンめいた陰謀論者やプラウド・ボーイズ的なトランプ支持派っぽい人々と、現実を見ようとするJUST LOOK UP派な派閥に分断されるのだけれど、結局どちらもやってることは具体性に欠けるどーしようも無さで、うわーしかしコレが現実だったよなーと実感し呆れた。要は肯定派も否定派もどっちもアホ、と描いているのは優れてると思った。特に、アリアナ・グランデ扮するポップスターがチャリティコンサートを開いて、みんな感動して、で、終わりです、という"意識高い系"あるあるは面白こわかった。ヒラリーのこと応援しまくってたケイティ・ペリーを思い出した……。

環境活動家のグレタさんが「地球温暖化はもう起きている!なぜ何も行動しないのか!」と叫んでも、「このガキうぜー」とネットミームに成り果て、皆スターたちのスキャンダルの方が興味津々……なのは映画ではなく現実だったが、この映画のジェニファー・ローレンス演じるケイトはまさにそんな"現実"を目の当たりにする。
超巨大台風や竜巻だって、山火事だって、大寒波だって土砂災害や豪雨だって、異常気象はもう起きてるのに、誰も何も行動しない。
たぶん、ぼくらにとってこの映画は、いつかの実話だと思うよ。