みそらしど

Swallow/スワロウのみそらしどのレビュー・感想・評価

Swallow/スワロウ(2019年製作の映画)
3.9
主人公のハンターは、夫、夫の家族、自分の家族など様々な人の抑圧を受けながらいろんな気持ちや意見を飲み込んでいた。
その「飲み込む」を異食症の「飲み込む」とあわせて描いたことで、観ている人に抑圧に苦しむ女性の姿を、より強く訴える映画になっていた。

終始画面から伝わってくる不穏な雰囲気に、ホラー映画でも観るような不安を感じていたけれど終盤に向かうにつれて、ハンターという一人の女性の葛藤に引き込まれていた。
やたらと広くて大きい家や、ずっお薄曇りの天気、登場人物らの作り出す居心地の悪い空気感など、そういったネガティブなイメージが流れる一方で、インテリアやハンターの洋服にかなり鮮やかな色味が使われており、一層重々しい雰囲気や虚無感みたいなものを引き立てていた。単純に綺麗だなとか、おしゃれだなとも思ったけれど、それだけのために使われた色ではないのだろうな。


-----※以下ネタバレ注意※---------

ハンターが母親ではなく、実の父親ウィリアムに言葉を求めたところが私は本当に苦しかった。
誰かに自分を認められたくて、受け入れられたくて…本当は母親にそれをしてもらいたかったのかもしれない。でも母親にとって自分はやっぱり優先順位が高くないのだと電話越しに思い知らされる。
母をレイプして自分を身籠らせたウィリアムのこと、うまく受け入れられない存在だろうに、彼女は彼に「お前は俺とは違う」と言わせ、その言葉で気持ちを前に進めた(救われた、というのはやや違和感があるので敢えて避けます)。
ハンターに本当寄り添って受け入れてくれる存在がいないからこそ、あの行動をとる他なかったのかと、とても辛くなるシーンだった。

ラスト、ショッピングモールの女性トイレのシーン。
私は、どんな人がどんな悩みや地獄を抱えていてもわからない、という描写なのかなと思った。個室から出てきたハンターのことを、おそらく誰も「いま個室の中で子供を堕していた」なんて思わないだろう。
次々とトイレにやってくる女性たちのことも、個室の中でどんな表情や気持ちか、見えないところで何を抱えているのか、側から見てもわからない。個室から出てくればなにもないような顔で手を洗い、化粧を直して出て行く。
そう思ったら、なぜか私は涙が止まらなくなってしまった。みんな孤独だと感じたのだろうか。
ただ、いろいろと読んでいたら、感想で「トイレは女性が唯一誰の目も気にせずに素になれる場所」と書いている方がいて、それもそうだなと思った。そう考えると、私の最初に抱いた感想よりもトイレという場所がネガティブから離れるというか、一息できる場所として映る。
この映画を観たみなさんは、ラストのトイレのシーンで何を思うだろうか。

そして最後に流れるAlana Yorkeの「Anthem」もよかった。映画を観てからも何度も聴いてる。