みそらしど

夜明けのすべてのみそらしどのネタバレレビュー・内容・結末

夜明けのすべて(2024年製作の映画)
3.9

このレビューはネタバレを含みます

以前映画館で予告を見て気になっていたところ、よく拝見する某酒飲みYoutuberさんが絶賛していたので鑑賞。久しぶりに友人と映画館へ行った。

映画館内の気温がやや高く、これは寝てしまうかもしれない…と思っていたけれど、上映が始まると眠くなることは一切なく作品に引き込まれて見入った。

単刀直入にいうと、この作品を気に入った。だけど、登場人物にそこまで共感できている分けではないのにもかかわらず、こんなに良いなと思うことはあまりないので新鮮だ。

藤沢さんを通してPMSの辛さや苦しさを描いているのは、一女性としては情が入ってしまうところがあった。
一方で終始気になっていたことがある。
それは、藤沢さんは「日頃は心の中で思っていることを我慢していて、PMSによ抑えが利かなくなりそれが口をついてでてしまう」のか、或いは「PMSでイライラしているときは、普段は思いもしないような辛辣なことが浮かんでそれを表に出してしまう」のか、どちらだろうということだ。これがどちらなのかで、また見え方が変わってくる気がする。
彼女がイライラしながら発する言葉はかなり鋭いものが多かったが、PMSではない時期はかなり穏やかそうな人物として描かれていたので、人格が変わってしまうほどのPMS症状の重さを表現しているのだろうか。

また、藤沢さんと山添くん両方にいえることだが、人間の多面性というか、単純な性格ではないところが人間をリアルに描いているなと思った。
藤沢さんは引っ込み思案で、いろいろ気にしいな性格かと思いきや、山添くんの家まで行って髪を切ったり、自転車をプレゼントしてみたりと、他人の領域に割とずかずか入っていくことにギャップがあった。
山添くんは、プライドが高くて、自分のことにしか興味がないのかと思いきや、藤沢さんとの出会いでPMSについて本を読んで勉強した上、自分ができることを実践して相手を助けようとしてみたり、とこれまた最初の印象からはギャップ。
作中のどこかで「人は見かけによらない」というようなセリフがあった気がするが、正にその通りだった。
小説や映画などのフィクションでは、登場人物は一貫した特徴を持ったキャラクターとして描かれることが多いし、リアルな私たちの世界でも星座や血液型、MBTIなどの枠組みで「この人はこういう性格」と型にはめたがる傾向があるように感じる。
だけど、実際の人間は一貫性のある生き物なんかではないよな、と改めて思わされた。
少し別の話だが、先日Twitterで「電車内で泣いている子供を見かけると、『うるせえな』と思う自分と『健やかに育てよ』と思う自分がいる」(ニュアンス)というようなポストを見かけて、たしかになと思っていたところだった。人は一つの事象に対しても相反する感情や意見を持つことがあるし、性格という少し引きで見た場合にも矛盾することや意外性のある性質を持ち合わせることだってあるよな、と納得する。
改めてそう認識すると、矛盾している自分に優しくなれたり、他者のいろんな面を見た時も寛容になれるような気がしてくる。

リアルな描き方繋がりでいうと、山添くんの元同僚たちもリアルだなと思った。
山添くんが食事会の誘いを断ったところや、元上司と同僚が山添くんの現在について軽く雑談するときなど、誰も悪口を言っていなかった。もちろんカメラでシーンとして抜かれている部分以外で言っている可能性はある。
ただ、フィクションだと、彼らは山添くんのいないところで陰口を言っているシーンを抜かれ、わかりやすく悪者的に扱われるパターンもありそうなのにな、と思った。しかし考えてみると、実際の世の中で、元同僚が飲み会を断ったからと言って、その場ですぐ悪口なんて言わないと思う。わかりやすい悪役を登場させないところも今作の好印象な部分だった。

あとはメイン2人が簡単に恋愛関係にならなかったのも良かった。2人が付き合ったり、それに伴って藤沢さんが転職を止めていたりしたら、少し話が薄いというか、「ご都合」な感じが出てしまっていたような気もする。

映画もよかったけれど、感想として考えがまとまっていないところもあるし、映画だけでは読み取り切れなかったところもあるので、折をみて原作も読んでみたい。