Cisaraghi

シング・ア・ソング!~笑顔を咲かす歌声~のCisaraghiのレビュー・感想・評価

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ミリタリー·ワイブズ·クワイヤは、以前ギャレス·マローン先生の番組で見たことがあった。あの番組を見て初めて、イギリス軍は海外派兵でコンスタントに死傷者を出しているのだと知ってショックを受けた覚えがある。英国は、当時のアフガン紛争で米国に次ぐ450名以上の死者を出している。

彼女たちはいわゆる銃後の妻だ。君死にたまふことなかれ、と祈るのが日課。しかし、職業軍人の妻や母である以上、最愛の人の「殉職」という事実は受け入れるしかない。どれだけ悲しんでも怒ることはできないのではないか?少なくとも表向きは。ゲーテッド·コミュニティである基地に暮らす彼女たちだけれど、この一般人よりはるかに蓋然性の高い配偶者や子供の死または負傷と常に隣り合わせという、高い緊張を孕んだ日常感覚は、同じ日常を生きる者同士にしか共有できないだろう。描かれるのはそういう彼女たちの始めた合唱団。

映画は、多分ギャレス先生の番組を元に、映画的脚色を加えたドラマになっている。主軸は、おそらくどちらも架空の人物であるクリスティン·スコット·トーマス演じるお堅い大佐の妻ケイト(=保守)と、黒人の夫を持ち、堅苦しさを嫌うリサ(=非保守)との主導権をめぐる確執。そこにいかにもイギリスの女性たちらしいユーモラスな脇のメンバーたちが配され、それぞれにキャラが立っていて楽しい。リサの娘、フランキーもポイント。

ウェールズ娘・ジェスのゴスペルチックなソロもとても素敵だったが、ギャレス先生の番組でソロを取った刺青がトレードマークのサマンサ·スティーヴンソンの透明な歌声も本当に素晴らしく(YouTubeで聴ける)、甲乙つけがたい。

この軍人の妻たちの合唱団、ギャレス先生の番組を見て以降の動向は知らなかったが、その後大々的な成功を収め、規模も拡大して大活躍しているらしい。同様の合唱団が本国だけでなく世界のあちこちの基地に生まれ、慈善団体としても大きくなり、商業ベースでの活動も活発なようだ。しかし、英国で大ヒットしたという美しい“Wherever You Are”を歌詞を見ながらあらためて聴くと、英国軍の海外での活動が無条件に美化されてしまうようで少々怖さも感じた。映画では“Wherever You Are”は使われず、クライマックスでは、映画のために新たに書き下ろされた、歌詞により普遍性のある“Home Thoughts from Abroad”が使われたのは、新鮮さも加わってよかったと思う。

途中、音痴か?と思われたコントラアルトの伏線回収にはホッとした。
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