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劇場版 きのう何食べた?のsanbonのレビュー・感想・評価

劇場版 きのう何食べた?(2021年製作の映画)
3.9
[省エネ版]

この作品は、ゲイのカップルを題材にしながらも、性的なニュアンスは一切排除して、誰でも気軽に楽しめるほのぼのとした作風がとても魅力的である。

だからこそ、劇場版だからといって、大仰な展開を盛り込んだり、無駄にキャスティングを豪華にしてみたりなどせずに、あくまで慎ましやかに、ドラマ版の延長としてのスタンスを崩す事なく作り上げられていたのは、逆にスタッフの今作に対する多大なる愛を感じるところであった。

だからこそ、今作を観るにあたっては「シロさん」がタチで「ケンジ」がネコなんだろうなぁ…みたいなゲスい雑念は絶対にしてはいけないのだ。

ところで、今作の根幹を担うテーマの一つとして"特殊な境遇の恋愛模様"というものがあるが、恋愛ってなんでこんなにも難しいのだろう。

実は、僕も今気になる相手に絶賛モヤモヤ中で、その娘は仕事仲間で立場上ほぼ毎日一緒に行動を共にしているのだが、向こうから話しかけてもきてくれないし、こちらからの質問にも一言だけで済まして質問をし返してもくれないという、異性どころか、人間としてすらまともに興味を持たれていないような状態に、ひたすら心をへし折られまくりの日々を送っている。

しかも、彼女の周囲への対応を観察する限り、それはどうやら自分にだけではなく、男女問わず誰に対してもそのような態度で、一緒に働きだして僅か3ヶ月足らずだが、彼女が他の誰かと仕事以外の話を、ほんの些細な世間話でさえしているのを、僕は未だ一度たりとも見た事がないのだ。

そんな、他人に対して明らかに分厚い壁を作っているとしか思えない彼女に、なんで誰とも話をしないのか直接聞いてみた事がある。

そうしたら、彼女からは「話をするのが好きではない」という至極単純な答えが返ってきた。

確かに、稀にそういう人はいる。

だからといって、彼女に限ってはあまりにも対人関係の構築を蔑ろにし過ぎとしか思えず、社会人としてはあり得ないくらいに必要最低限の会話しかしようとしておらず、仕事とプライベートを完全に切り離して考える人も中にはいるが、そうだとしても正直こんな人間と遭遇したのは生まれて初めてレベルで、内向的過ぎる程なのである。

しかし、多くの時間を共有している身としては、明らかな距離を感じたまま沈黙が延々と続くと、それだけで気が狂いそうになってくる。

だからという事もあり、僕は攻めの姿勢をとる事を決めた。

必死にネタを搾り出しながら、半ば彼女を質問攻めにするような、一方通行なコミュニケーションを約2ヶ月ばかり続けた結果、相も変わらず向こうから話しかけられたり、個人的な質問をされたりなどにはあまり変化がみられないながらも、僕からの質問に対しては、当初では考えられないくらい事細かに、しかもなんでも答えてくれるようになったのだ。

それこそ、今やセクシャルな事以外なら彼女のパーソナルな部分を基本なんでも知っている状態にまでなったし、なによりそれを嫌がる様子なく会話を楽しんでいる素振りをみせてくれるようにまでなっていた。

これは、あくまで希望的観測だが、僕以外の人間には一切見られない変革である。

そして、個人的な最大の変化が、こちらが勘違いしてしまうほどに、物理的な距離がとても近くなった事だ。

人と接するのが苦手な彼女が、パーソナルスペースを簡単には侵させはしないであろう事を考えると、これもぶっちゃけ都合の良い願望でしかないのだが、手が触れあえる程の距離感で歩けるまでになった自分は、恐らく彼女にとっても特別な存在に近づいているに違いないと、文字通りの勘違い。

そして、意を決して食事に誘ってみる事に。

すると、彼女は気まずい空気を隠す事なくただただ沈黙。

そう、核心に迫るようなアプローチをかけると、彼女はたちまち身を引いてしまうのだった。

ボッキボキに折れた心に鞭打って、なんとかその場を咄嗟に取り繕ったのが功を奏したか、関係性は未だ変わらず保ててはいるものの、どうやら彼女には僕に対する恋愛感情はなさそうである。

まあ、普通の女性なら話しかけられも質問されもしない時点で、相手に気がないのは火を見るより明らかなのだが、彼女の場合その特殊過ぎる性格ゆえ、こちらにも都合の良い解釈の余地が生まれてしまい、その上で"脈ありかも"と"脈なしかも"を絶妙に繰り返される為、こちらの気持ちも上がったり下がったりの乱高下状態で、非常に辟易した毎日を送っている。

恐らく、他の同僚に比べれば確実に心を許してはくれているのであろうが、それはあくまで職場という抑圧された狭いコミュニティの中での話であって、それがどの程度の信頼性を持つかは言わずもがなであり、ほぼ毎日がデートといえばデートみたいなもんではあるのだが、それでも職場の外では会ってくれないとなると、そこから異性として意識してもらうにはどうしたらいいのか、恋愛下手な僕にとってはもはや手詰まりである。

なにか、彼女を射止める上手い方法はないものだろうか。(切実)

とまあ、超脱線してしまったが映画は面白かった。
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