ひでやん

護られなかった者たちへのひでやんのレビュー・感想・評価

護られなかった者たちへ(2021年製作の映画)
3.9
すり抜けてしまう穴だらけのセーフティーネット。

震災、生活保護、殺人事件という3つのテーマが重かった。石川県に住む自分は元日の能登半島地震の恐怖を体験したが、幸いなことに家族も家も無事だった。しかし、家が全壊して避難した人たちの話を最近聞いていたので、震災直後の避難所から始まる冒頭がキツかった。終盤でカンちゃんが「震災は怪物」と言った言葉で目が潤んだ。

生活保護。詳しく調べる事がなかったので「受給要件を満たすのが厳しく、贅沢しちゃいけない」というイメージだけ持っていた。「欧米の生活保護率が5%程度であるのに対し、日本は1%と少なく、国連からも是正勧告を受けている」という台詞に驚いた。厳格化された受給条件、困難な申請手続、生活保護は恥だというスティグマ、これらをクリアしても、扶養照会という切り札を出されちゃ心が折れる。親族に頼れないから国に頼るのに、親族に援助してもらえって…諦めさせるための手段としか思えない。

殺人事件。超えちゃいけない線を超える時、相当な動機が必要である。永山瑛太と緒形直人はそのための「悪」であり、善人面した悪人への復讐だと思えたが、吉岡秀隆を善人に描いちゃったから、彼に対しては逆恨みに思えてしまった。阿部寛が演じた刑事が利根を見つけた時、そっと近づきゃいいのに、道路を挟んで「利根」と呼んだらそりゃ逃げられるって笑。あと、カンちゃんと再会したシーンでダンスがやたら気になって邪魔だったが、なぜ必要だったんだろう。

倍賞美津子の演技が素晴らしい。帰る場所があるのって幸せだなと改めて思った。日本はデモや暴動が少ないよね、国になんの期待もしなくなって政治離れしちゃってる。声をあげれば国に届かなくても誰かに届く。声をあげればきっと。
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