Tラモーン

茄子 アンダルシアの夏のTラモーンのレビュー・感想・評価

茄子 アンダルシアの夏(2003年製作の映画)
4.3
夏らしい作品を続けて。何故か続編だけクリップしてた🚵‍♀️


スペインの自転車ロードレース、ヴェルタ・ア・エスパーニャ。ぺぺ(大泉洋)は地元アンダルシアでのレースの最中、チーム無線の不手際からスポンサーが自分を解雇しようとしていることを知ってしまう。さらにその日は地元で兄アンヘル(筧利夫)と、ぺぺのかつての恋人カルメン(小池栄子)の結婚式が行われる日だった。


自転車レースなんて全然観たことなかったけど、めちゃくちゃ手に汗握った!猛暑の中、自転車を駆って走るレーサーたちの熱気はまさに夏に観るべき映画だった。
そしてそれ以上に、レースの中で様々な思いを巡らせるぺぺの男っぷりに胸の熱くなる作品だった。

まず監督の高坂希太郎が自身も自転車好きということもあってか、単純に自転車レースモノとして観てもめちゃくちゃ面白い。
無線で監督とやりとりするんだ!とか、サポートチームが走りながら水とかヘルメット手渡してくれるんだ!とかそんな些細なことの描写がとても丁寧で、知識がなくても楽しめる。
集団で走るときの風対策の隊列とか、逃げの攻防、どこでアタックを仕掛けるのか、まだスプリントする足は残っているのかなどなど自転車レース特有の心理戦や独特の楽しみ方がわかりやすくて面白い。

勝ちしか許されなくなったぺぺの気合いのレース展開が熱過ぎる。

"お前の仕事を言う。勝利だ"


ぺぺのレース、アンヘルとカルメンの結婚式を並行して描きながら次第に3人の過去やぺぺの抱えた思いが明かされていく様も、決して説明臭くなく、それでいて心情を十分に想像させる描き方でとても好み。

"俺は遠くへ行きたいんだ"

"勝っていれば表彰式に間に合う。負けるようならそんなTVは見ない"

ぺぺを愛する家族たちと、地元を振り返りたくないぺぺ。

慣れ親しんだアンダルシアの街。振り払いたかった様々な記憶が蘇る。
それを断ち切るように怒涛のスプリントを仕掛けるぺぺとそれを追うライバルたち。
後続集団を交えたラストスパートはアニメ表現の良さ限界まで引き出した見事な名シーン。本当にスポーツ中継を観ているような緊張感が凄まじい。


レースが終わり、クールダウンランをするぺぺをカルメンたちが車で追ってくるシーン。ぺぺを心から労うカルメンとアンヘルだがぺぺはそれをあしらい行ってしまう。
その時にエルナンデスじいさんが歌う故郷の歌がいいのよ。いつかぺぺが過去と地元を受け入れて戻ってくるその日まで、この人たちは待っててくれるんだろうな。

1人峠に登り、街の灯りを眼下に昔を思い出すぺぺには泣けてしまった。最高だ。

それでも彼が地元を愛する心を失くしていないと言わんばかりのラストシーンの茄子のアサディジョ漬けのとこよかったなぁ。


大泉洋も筧利夫も舞台上がりだけあって声優やらせても上手いんだな。小池栄子のカルメンも可愛かった。
高坂希太郎は『千と千尋の神隠し』などの作画監督も務めていたらしく、たしかに画風はジブリ風。個人的には『千と千尋〜』のリンが好きなので出てくる女性がみんな可愛くてよかった笑。


エンドロールで忌野清志郎の歌が聞こえてきて、そうだこの人も自転車大好きだったんだよなぁと懐かしい気持ちになった。
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