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茄子 アンダルシアの夏のKKMXのレビュー・感想・評価

茄子 アンダルシアの夏(2003年製作の映画)
4.1
自転車レースには興味ないですが、アンダルシアは好きなので鑑賞。いや〜なかなか面白かったです。尺は短いながらも見せ場は多い!観応えありました。

主人公ペペはスペインのアンダルシア地方出身の自転車レーサー。今回は故郷でのレースとなりますが、ペペのテンションは低めです。ペペは故郷に対して複雑な思いを感じている様子。彼は故郷を捨ててレースの世界に飛び込んだのです。
そして、その日はペペの兄であるアンヘルと婚約者である褐色の肌のセクシー美女・カルメンとの結婚式が行われていました。レースのルート上にある式の二次会(?)の会場の前でアンヘルらはペペを応援しますが、ペペは無感情です。ペペのテンションの低さはどうやら兄との関係に原因があるような様子です、そして…というストーリー。


いや〜、まさかここまでシリアスな兄弟葛藤があるとは予想できなかった!これはペペが故郷を捨てようと思うのも無理ない。とはいえ、兄弟仲は真の意味で悪くはなく、レースを終えて2人の関係は微妙に変化したようにも感じます。ただ、それを抑制的に描くのが特に良かったです。
アンダルシアの乾いた空気や雲ひとつない青空と、ペペのシニカルな低体温感の対比も良くて、小品としては文句ナシの逸品だったと感じます。

印象に残ったシーンも多いです。炎天下のレース中、ひとり疾走するペペにスッと黒い影がかかります。その正体は荒野の高台にそびえ立つ木造(?)の巨大な牛の看板でした。この牛の看板はこの地の守神のような印象を受け、実際ペペもどことなく敬意を抱いている様子でした。その地に昔から存在する物理的かつ圧倒的に巨大な存在には、神性が宿るような気がします。神木とか。この地を統べる牛の神に見守られながらペペはこのレースと兄との葛藤を戦い抜いたのだと感じました。

背景と音楽も素晴らしいです!アンダルシアの雄大で荒涼とした風景と、灼熱具合が伝わる青すぎる空。夕暮れの紺碧と赤紫のグラデーションも息を呑む美しさがありました。
そして、音楽はアンダルシアといえばコレ、フラメンコです!実は、俺はかなりフラメンコの音楽を好んでまして、バッチリ使用されていて嬉しかったです。レースの終盤になると三拍子の緊迫感のある旋律が流れ、劇を盛り上げます。このなんとも言えない性急なリズムと調べにすっかりシビれました。
あと、アンヘルとカルメンの結婚式で、男女問わず手拍子でリズムを取り、自然と踊りが発生する雰囲気がめちゃくちゃ良かったです。あ〜、これが土着の文化だわ〜と、なんか羨ましくなった。もっと日本にも日常に踊りがあればいいのに、盆だけじゃなくてね。


このようにバランスのとれた小粋な秀作でありました。文句を言えば、セクシー美女カルメンの声が若き日の小池栄子で、かなり拙く役不足感は否めませんでした。イチャモンはそれくらいです。

ちなみに、タイトルの茄子は、アンダルシアの名物である茄子のアサディージョ漬けのことで、作品の要所要所で印象的に登場します。しかし、この名物は架空であり、実在しないそうです!意外!
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