どんどん公開館が減っていくなか、やっとの思いでふだんめったに行かない大森まで遠征。その甲斐がある映画だった。ほんとにめちゃくちゃ面白い❗️ 予算がでかいわけでもなく、スターがいるわけでもなく、大惨事や大事件が起こるわけでもない。心を掴むストーリーと秀逸な脚本、演出、適正なキャストが揃えばここまで完成度の高い作品ができるのだという証みたい
要領のよい営業マン、辻と、ワンピースの女、浮世の出会いから転がり始めるストーリー。なにかと辻に迷惑をかける、ひたすら受け身で自己肯定感の低い浮世を疎ましく思いながら、なぜか突き放せずにどんどん深みにハマっていく辻。正体不明の彼女の過去が段々と判明していく中で、罪悪感なく二股を楽しんでいた辻自身のアイデンティティーが崩壊。しまいには浮世や細川先輩との関係が変形し、仕事にも支障が出て……という展開。関係性のパワーバランスや役回り、そして台詞までが入れ替わるという仕掛けが思わぬ効果を発揮して、時に滑稽なまでの味わいを生み出す。本当に上手過ぎる。
主演の二人だけでなく、細川先輩やみっちゃん、そしてヤクザモノの脇田（北村有起哉がハマっている）や浮世のダメ夫など、多過ぎず、少なすぎない登場人物もそれぞれにうまく役割を発揮していて、ピシッとハマったジグソーパズルのような構図が出来上がる。それぞれにリアリティーがあるのも素晴らしい。チョイ役ながら、浮世の過去を知っている知人としと出てきた若い母親が辻に話した内容が意外に重要で、彼女にちょっとぶたれたことが辻の変容のきっかけのひとつになったのでは、と思った。また、登場人物内でいちばん賢いと思われる細川先輩の感じが魅力的に思え、彼女の浮世への態度や言葉も印象的だった。
『よこがお』も秀逸だったけれど、個人的には今作の方が好み。いじめに関わったことがある人や、常に淡々としていることに疲れを感じているひとにはズブズブと刺さる要素がいっぱいな作品。感服しました。
