くまねこ

アナザーラウンドのくまねこのレビュー・感想・評価

アナザーラウンド(2020年製作の映画)
3.9
「アナザーラウンド」北欧の至宝、マッツ・ミケルセン主演、アカデミー賞国際長編映画賞受賞作品をHTC有楽町で鑑賞。

さえない高校教師マーティンと同僚3人は「血中アルコール濃度を0.05%に保つと、仕事の効率が良くなる」という哲学者の理論を証明するため、飲酒して授業を行い、次第に人生が好転していく、夢のようなストーリーのはずだったのだが…。

16歳から飲酒可能なデンマークの法律に驚くとともに、飲酒する高校生たちの輝きと、酒に溺れていく教師たちの姿が対照的。

“人生の午後”に直面した中年男たちのアルコール三昧の愚行は、一見楽しそうだが、その味わいはワインよりも苦い。一滴も酒を飲まない私にとって彼らの行動は愚かに見えるが、同年代に近いからか、一抹の共感さえを感じてしまう。

4人の教師たちの行動は常軌を逸してはいるが、揺るぎない友情と絆も感じ取れてほっこりする場面も多い。

情熱に燃えた若き日々の光は、遠い過去のものとなり、4人の教師たちは輝きの失せた、解体寸前の舟のようでもある。

本作での酒・アルコールは単なる小道具に過ぎず、本作は、人生の後半、中年の危機をどう生きていくかを観客に問うていく。

我々は彼らの愚かさに呆れながらも共感せざるを得ない矛盾と現実の辛さ。アルコール中毒は北欧だけでなく全世界共通の問題でもある。

冒頭のキルケゴールの「青春とは?夢である」「愛とは?夢の中のものである」という言葉が徐々によみがえってくる。

本作撮影開始4日後に、不慮の事故で実の娘を亡くしたトマス・ビンターベア監督の悲痛な想いは、人生を敢えて前向きに捉えようとする意識にさえ感じる。その想いと願いを主演のマッツ・ミケルセンに託しているようにも感じる。

自らを解放する様なマッツ・ミケルセンの目の覚めるようダンスシーンが圧倒的に素晴らしいのに、何故か切なくて胸が熱くなった。
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