開明獣

ウルフウォーカーの開明獣のレビュー・感想・評価

ウルフウォーカー(2020年製作の映画)
2.0
森に棲む狼と共生する人間と、文明を金科玉条とし、自然を征圧しようとするものとの対比の物語。英国から来た騎士の娘、ロビン、は森でウルフウォーカーと呼ばれる女の子、ネーブと出会う。はじめは狼を人間社会に仇なすものとして否定していたロビンはネーブの自由な生き方に次第に共鳴していく。

アイルランドが産んだ偉大な文人と言えば、「ユリシーズ」や「フィネガンズ・ウェイク」という革新的な小説を産み出した、ジェイムズ・ジョイスと、詩人でノーベル文学賞受賞者のW.B.イエイツがいる。

そのイエイツはアイルランドの熱心な民族運動家でもあり、ケルトの神話や妖精譚の著作を何冊か手がけている。そこでは、レプラコーンやケット・シー、バンシーやデュラハンといった、ファンタジーの世界ではお馴染みの異形のものたちが跳梁跋扈(ちょうりょうばっこ)し、アイルランドに伝承されてきた文化の一端を垣間見ることが出来る。

ドルイドを始めとするケルト文化は口伝の文化であった。長きに渡って古老から伝え語られてきた物語は時代を経て熟成するうちに変化していったのではないか?本作も、イエイツの妖精譚同様、その一環として見ることが出来るのかもしれない。

ローマからの侵略を逃れたからゆえ、独自の文化を蓄積し得たアイルランドだが、18世紀以降は英国の侵略に苦しめられることになる。抑圧からの解放、信仰の表と裏、マイノリティ礼賛、自然との共生を称揚する環境問題、家族愛、などなど重奏的な構造を意図したものだとは思うが、それが果たしてうまく消化出来ているのかは、本作では心許なかった。

もう少しテーマを絞り切れていれば、評価は高くしていたかもしれない。ケルト文化に憧憬を抱くものとして、個人的には惜しい一作であった。
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