竜平

ニューオーダーの竜平のレビュー・感想・評価

ニューオーダー(2020年製作の映画)
4.3
とある豪邸にて催される結婚披露宴が突如一変、やがて起こる社会秩序の崩壊と混沌を描く。メキシコ産の社会派スリラー映画。

前情報ほぼなしで、前述のあらすじくらいで興味を持って鑑賞。オープニングからとにかく不穏な空気が漂いまくる。洒落てる邸宅にてパーティーをする、見るからに富裕層の人たち、とそこで雇われている使用人たち。格差の見える現状と、何やら抗議運動が起きてるらしい街のざわつき感など、リアリティー溢れるタッチで進んでいく序盤、そしてある瞬間から一気にヤバい方向へ。で、とんでもない状況下で焦点を当てられる人物が数人いるんだけど、それぞれの場所でそれぞれの内面が交差しつつ展開していく。描かれるのは圧力や暴力、そしてそこにある恐怖や疑心や、とにかく負の方向の人間模様。めちゃくちゃ恐ろしくて、目を覆いたくなるような、マジで悪夢のようなストーリー、と言いつつこれはきっとニュースなどに見るような、海外にて実際に起きている暴動や弾圧の中にある出来事だったりもして、じつは現実的と言えてしまう、という、そう考えるとまた本当に恐ろしい。秩序がなくなる様子は例えばゾンビ映画なんかよりもずっと混沌と狂気に満ちてるし、人が人に酷いことをする、しかもしっかりと感情を持ってやってるんだから、もうね。描写もショッキングだったり想起させるものだったり様々で、鑑賞しながらこっちまでビクビクしてしまうし、どう眺めていればいいのかもわからなくなってくる感じ。個人個人の話からやがて軍、そして国のことへと発展していくあたりにも引き込まれる。まさに社会派。一個人ではどうしても抗えないような国の有り様、現実というのを見せつけられるはず。

後で調べて知ったこととして、メキシコの国旗の色「緑・白・赤」がじつは印象的に使われていて、例えば緑は映画のジャケ画像にも気味悪く使われてるけど作中では暴動でばら撒かれる塗料の色で、白は邸宅、赤は主人公マリアンのウェディングドレス、など。国旗の色にはそれぞれ「緑:独立」「白:純粋性」「赤:諸民族の統一」と意味があるらしくて、そこらへんの意味合いも加味しつつ見ると「皮肉」では済まされないような重大なメッセージ性も感じ取れたりして。感想として「おもしろい」という表現をしていいものか微妙なんだけど、いやはや見入ってしまった。画面に釘付けになってしまった。普段自分が持ち合わせてる常識も、ちょっとした良心もこういった状況では通用しないし届かないのかなと思うと本当に悲しいし恐ろしい。ここに新たな胸糞映画が誕生、と言いつつ、ひとまず心を強く持てる時に見るとして、単なる「胸糞映画」の括りで見終えるには勿体ない一本。いやー、くらった。
竜平

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