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海の上のピアニスト 4Kデジタル修復版のmaroのレビュー・感想・評価

4.0
「午前十時の映画祭13」で面白かった順位:13/27
  ストーリー:★★★★☆
 キャラクター:★★★★☆
     映像:★★★☆☆
     音楽:★★★★★
映画館で観たい:★★★★★

「午前十時の映画祭13」最後の作品。
1998年のイタリア・アメリカ合作映画。
巨大な豪華客船が舞台なので、どことなく『タイタニック』(1997)のような雰囲気を感じるけど、内容はラブストーリーではなく感動的なヒューマンドラマ。
船上に捨てられ、やがて偉大なピアニストとなった1900の生き様を描いた濃密な映画だった。

この映画は1900(ティム・ロス)のキャラクターと、彼のピアノの演奏テクニックが見どころだと思う。
彼の育った環境はかなり特殊。
そもそも誰がどんな理由で捨てたのかはわからないけれど、他に身寄りがないってんで船の上の男たちに育てられる。
「どこかに届け出ろよ」って話だけど、出生証明書もないし引き取り手もいないのだから、船で育てた方がまだ安心だと思ったのかもしれない。

海の男は荒くれ者のイメージが強いけど、1900はどちらかと言えば大人しく、さらにはピアノの才能を開花させるという文化系へと成長。
あるときいきなりピアノを弾き出すものだから、一体いつどうやってそのスキルを身につけたのかは謎なんだけど(笑)

でも、彼はそのピアノで人々を魅了していく。
中盤で彼に勝負を挑んだジェリー・ロール・モートンとのピアノ対決はすごかった。
3本勝負だったんだけど、ラストで1900の披露したあの早弾き。
なんあの、あれ。。。
人間の指ってあんなに速く動くものなの、、、?
あまりの速さに指が30本あるように見えたほど。

そんな1900のラストは寂しくも潔かった。
廃船となったヴァージニアン号を爆破するんだけど、彼は船からは降りず、人生から降りるというのだ。
彼ほどの才能があれば、ピアノでいくらでも稼げたし、実際にそう進言する人もいた。
ただ、彼にとってはそんなことどうでもよかった。
一度、1900は船を降りようと決意するんだけど、ニューヨークのビル群を見て辞めちゃうんだ。
彼曰く、「あの街には終わりがない」からと。
きっと、1900の中では「終わりがある」からこそ人生には意味があるんだという考えだったんだろう。
制約があるからこそ、限りがあるからこそ、その中で一生懸命に生きようとするし、素晴らしい音楽も生まれる。
でも、終わりのない無限に広がる街の中では、何かを選び取ることが難しく、そんな中で生きることはとてもストレスフルだった。
限れらた空間の中で、限られた人たち(いつかは船を降りるという限定的な人たち)と触れ合ってきたからこそ、1900はそういう考えに至ったんだろう。
とはいえ、一度ぐらいは陸で生活した上で判断してもよかったんじゃないかなとは思うけど。

そんなわけで、海の上で生まれ海の上で死んでいった男の、よく言えば気高い、悪く言えば意固地な人生が面白い映画だった。
あれだけの才能を持ちながら、「いや、俗世には興味ないっす」みたいなスタンス取ってみたい(笑)
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