赤ちゃんポストに子どもを預けた若い女と、預けられた子を養子として横流しするブローカーの男2人。女が戻ってきた事をきっかけに、彼らは赤ちゃんの買い手を探す旅に出ることになる。
過去は洗い流せないけど
雨が降ったら大きな傘を差せばいいじゃない
是枝監督のフィルターを通した、真っ直ぐで、とても優しさに満ちた世界だった。
暴力団との絡みやサスペンスっぽい演出に現実味はないものの、登場人物の心が通う瞬間に胸を強く打たれた。
善人なのか悪人なのか分からない茫洋とした男サンヒョン、児童養護施設で育った男ドンス、赤ん坊を育てる気があるのかないのか分からない女ソヨン、途中から加わった人懐っこい男の子へジン、そして(眉が薄いけど)みんなの人気者ウソン。
もともとは関係のない赤の他人同士の5人。オンボロワンボックスカーに乗って、家族のようにわいわい旅する光景は『リトル・ミス・サンシャイン』を思い出させる。
彼らを一歩離れたところから見つめる女刑事2人も物語を進める上で重要な存在だ。
冒頭「捨てるなら産むなよ」と吐き捨てたセリフは「産む前に殺すのと産んで捨てるのとどっちが悪いのか」という言葉で跳ね返ってくる。
自身も何か過去を抱えたスジンが立場をガラリと変えたように、現実社会も妊娠や中絶、出産、育児に対する見方を改めるべきではないか。そんなメッセージのようにも受け取れた。
洗車で泡だらけになるシーン、薄暗い曇空の中ゆっくり回る観覧車のシーン、明かりを消してお互いの存在意義を認め合ったモーテルのシーン……
今思い出しても涙がじんわり出てくる。
すぐ壊れてしまう偽りの関係だけど、数日共にする間に確かに育まれている信頼感。楽しくも切ない瞬間がとても愛おしく輝いて見えた。
誰しも産んでくれた母親がいて、父親がいて、育ててくれた人、見守ってくれた人がいる。人は自分の育った環境を当たり前だと思い、他者にも当てはめてしまいがちだが、家族との関係性は人それぞれ異なる。そういった想像力を持って相手と向き合うようにしたいと改めて思った。
綺麗にでき過ぎた作品かもしれない。
でも、たとえどんな過去があったとしても、お互いの存在を肯定し合えるあの擬似家族のように、みんな手を差し伸ばすことができたらいいのに。