むらむら

MORTAL モータルのむらむらのレビュー・感想・評価

MORTAL モータル(2020年製作の映画)
5.0
ノルウェーの大自然を舞台に送る、特殊能力を持つ男を主人公にした現代ファンタジー。

満身創痍で山から降りてきた謎の男。ホームレスのような身なりの彼は不良少年たちに絡まれ、「俺に触れたら死ぬことになる」というイキリト感全開な警告を無視した少年が死んでしまったことで、警察に拘留される。パスポートによると、男は北欧系アメリカ人のエリック(ナット・ウルフ)。臨床心理士のクリスティーヌ(イーベン・オーケルリー)は、エリックを尋問する中で、エリックが炎を操る特殊能力を持っていることに気付く。アメリカ大使館のヘリでの移送から脱出したエリックは、クリスティーヌと共に、この能力の謎を追う……。

エリックに触ると人が死ぬ、って設定が「半径15m以内に近付いたら即死」の「(r)adius ラディウス」みたいだなー、と思ったら、その設定自体はグダグダ。警察とか医者とか、触れてそうな人が大抵ピンピンしてるので、あんまりこの設定は追いかけないほうがいい。

むしろ気になるのは、この能力そのもの。

一度発動したら、火事は起こすは電気は止めるは雷雲は引き寄せるわ、かなり近所迷惑な代物。マジでリアル「嵐を呼ぶ男」。それだけなら洒落になるのだが、実際、この能力のせいで、ヘリが墜落したり家が燃えたり、人がバタバタ死んでいく。完全に要らない子っつーか、疫病神。

そんなエリックを、一人守り続け、当たり前のように恋に落ちてしまうのがヒロインのクリスティーヌ。ぶっちゃけ、こんな迷惑なホームレス、アメリカ大使館に任せとけば助かる命もあったろうに、と、恋で盲目になって、ノルウェーに大災害を引き起こしてるヒロインには猛省を促したい。

こないだ観た隣国スウェーデンの「ストックホルム・ケース」でもそうだったんだけど、北欧の女性は、イケメンが出てきたら、それが銀行強盗であれ嵐を呼ぶ男であれ、一瞬で恋に落ちる回路でも仕組まれているんだろうか。そうとしか考えられないくらい「出会って三秒で合体」以上の強引な恋愛展開はひっかかった。こんな疫病神の、どこに恋に落ちる要素があんねん。イケメンだからですか?

エリックはこれほどまでに迷惑の限りを尽くしてもなお、クリスティーヌとラブラブ、という、主人公以外には許されない主人公チートを大活用。翻って脇役のオッサンたちは、ノルウェー産の薪以下のぞんざいな扱いしかされていない。

例えば、逃避行中のカップルの前を走ってたトラックの運ちゃん(通称、ハゲ)。山道をトラックで走ってると、後ろからエリックたちのカップルが、ありえないくらいの無理な追い越しを仕掛ける。ハゲの運ちゃんはヒヤヒヤしながらも、追い越してもらう。その直後、カップルの車はスピンして大破。あやうく大惨事になるところ。トラックの運ちゃん、激オコでカップルに詰め寄る。

ハゲ「てめーら、何考えてんだ!」
クリ「すいません、怪我が酷くて病院に連れてきたいんです(嘘)」
エリ「ううう…」
ハゲ「……だったら仕方ねえ! 俺のトラックに乗りな!」

……ハゲのトラック運ちゃん、めっちゃ男気ある! 最高!

なのに、橋で待ち伏せしてた警察に、エリックたちと共に包囲され、トラックを捨ててスタコラ逃げ出す羽目に……。

人に親切にしたことが裏目に出てて涙。オッサン、何も悪くないよね……。

人に親切にしてもいいことはない。ハゲに人権はない。そういった社会の仕組みを叩き込まれてしまい、悲しくなってしまった。ハゲの運ちゃん、エリックたちをブン殴るくらいしてもバチは当たらないと思う。いや、エリックの能力で電気ショック与えられてさらに不幸な結果になるんかな。とにかく、ハゲの運ちゃん、一瞬しか出てこないのにメッチャ可哀想だった。

それと、エリックたちを追いかける--そして、途中から仲間になる--刑事のオッサン(パー・フリッシュ)の扱いもぞんざい。

このオッサン、能力の謎に近付くたびに

「はっ、これはルーン文字」
「ラグナログにあるトールの農場か!?」
「ああ、それはユグドラシルの木……」

って解説をカマしてくれる。

いわば「鬼滅の刃」の炭治郎や「魁!男塾」の雷電のような便利な説明要員。

いやいや、説明要員なのはいいとしても、刑事にしては、いくらなんでも、あんた、北欧神話に詳しすぎじゃないか? 今すぐ刑事やめて「ムー」の編集部に入ったほうが良いと思うわ。

物凄く細かいツッコミで恐縮なんだけど、能力の秘密を求めて洞窟に入るシーンで、エリックだけヘルメットしてないのも気になった。全員ヘルメットしないんなら、まだ理解できるんだけど、作業員のオッサンは律儀にヘルメットかぶってるのに、一人だけ洞窟に無防備で入っていくなんて。こーいう描写に、「主人公だから特別扱いされてるなー」と、ひねくれ者の俺は思ってしまった。

ま、こんな細かいツッコミなんてどーでもいい。とにかく、ノルウェーの雄大な風景をこれでもかと詰め込んだ映像美には圧倒される。なかなかサスペンス映画では観ない、ダイナミックな絵作り。特撮なんてショボくても良いのだ!

以前、俺、オーロラを観るためにノルウェーの北の果てにある漁村で過ごしたことがある。そのときは、極夜(白夜の反対)のシーズンで、真っ暗だし、周り一面雪景色だったから、こんな風景には出会えなかった。なので、この作品を観て、ノルウェーにまた行ってみたいなー、っていう気にさせられました。あ、、そのときはドイツ軍の残したトーチカで寒さを防ぎながら、無事、オーロラ観測することが出来ましたです。

話戻って、最後に、この作品のラストに関しても一言。

観た人だけは分かってくれると思うのだが、ラスト5分の超展開に、あっけにとられて、思わず映画館で吹き出しそうになってしまった。こんな終わり方でいいのかよ! って。詳細はネタバレなのでコメント欄に譲るが、某シリーズの前日譚としてカッチリ収まりそうなラストだった。

さすが「ジェーン・ドウの解剖」の監督。俺、こんな超展開、大好き。

万人がウケる映画じゃないだろうけど、大自然と最後の超展開で俺的には★5です。
むらむら

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