Oto

サマーフィルムにのってのOtoのレビュー・感想・評価

サマーフィルムにのって(2020年製作の映画)
3.8
青春劇、時代劇、ロマンス、タイムトラベルSF…を詰め込んで、一本の映画として成立させていてすごい。ミクスチャー映画。

これまた『ポンポさん』『桐島』『映像研』と同じく映画を撮る若者たちの物語だけど、予想していたいわゆるミニシアター作品というよりは、斜め上のエンタメに展開していったので驚かされた。

時代劇には疎いけれど、「勝新が尊すぎて。。」とか言ってるの観てると、十分リアルで実際にいそうな人物像に感じたし、この作品自体がメタに現代劇と時代劇をいいバランスで融合させて、大勢の人が楽しめるものになっている。今作が『武士の青春』というタイトルだったらみていなかったはず。

映画をつくりはじめるときに味わったワクワク(スマホで撮ってるのもリアル)も再現されていて、適材適所なスタッフが楽しんで進めているのも七人の侍のような楽しさがあった。天文部が未来人との交流に生きたり、剣道部も殺陣に生きたり、個性を生かした展開で納得性も高い。

青春物語として進んでいくのだろうと思ったら、奥歯に挟まるように主演が出演を拒んでいたり挙動不審だったりして、その謎がまさかの魔法で説明されるわけだけど、これもあの光が出る置物ひとつと、ホワイトボードだけで「こういうものですよ」と片付けていて潔い。

初めからわりかしフィクションラインは甘めで、橋から足がつく川に飛び込んだり、集まる秘密基地が謎の車だったり、まぁそこは突っ込まないものなんだろうという前提が共有できていたのもあったと思う。

短尺動画ばかりで映画が消えている未来予想図も実感があって面白いし、映画館に足を運んでこれを観ている人ならみんな主人公と同じ気持ちになったはず。

初期衝動の煌めきが眩しくて、思ったように撮れないもどかしさも、企画や上映時の興奮も蘇ってきた。
監督と役者の関係性の美しさ、監督とファンの関係性の美しさが素晴らしい。お互いがその相手じゃなければダメだという人と出会えないと映画は作れないのかもしれない。結局はどんなにいい企画ができても最後には人を撮ることになる。

冒頭でミスリードになっていた恋愛組の映画は確かに酷いけど笑、最終的にはそちらを否定するわけではなく、落ちこぼれ組がまさかの「好きだよ」で終わるというのも素敵。mappyのピアノ聴いてたから女優になっていたのも驚いた。

終盤の上映会はドタバタ劇で、勢いで押し切られた感じもあったけど、作中作がどんなによかろうと与えられる感動には限界があったと思うので、上手い着地だった。スラムダンクのようなカットで終わる胸熱。

役者がみんなすごく魅力的で、個人的MVPはビート板。主役を邪魔せずにしっかりと印象に残っていて、失恋シーンで揺れる感情もリアルに伝わる。

夜の体育館で映画愛を語るシーン、ラストカットを撮っている間に彼への好意を自覚するシーン、編集が進む中で部員同士の恋愛が進むのを紙芝居のように見せるシーン、夜の海辺で衝突して立場が逆転するシーン、思い返すと名場面が多い。コントっぽいんだけど胸を打つ。

映画部羨ましいなー…。夏休み、部屋にこもってゲームやったり、夏季講習で自習室に篭ったりしてないで、仲間とお金貯めて自主映画撮ったりしたかったなぁ。と言っててもなにも始まらないので、休日と有休で好きなものつくろうと刺激を受けた。

巨匠がいくらでも面白い作品撮ってるんだから自分なんて...って誰しも思ったことあると思うけれど、ここで思い出す好きな言葉、「書けば人生が変わるだろう、と言える脚本を書きなさい。売れる保証はない。だが、少なくとも、あなたの人生は変わる。」(ジョン・トゥルービー)
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