Oto

オールドのOtoのレビュー・感想・評価

オールド(2021年製作の映画)
4.0
見事…。「1日で一生が過ぎるビーチ」というワンアイデアで、ここまで描き切る手腕さすが。

宮崎駿が言うように、こういう大きな魔法のある非日常的な物語ほど、ハレだけでなくケをいかに描くかの能力が問われる。その意味でも序盤でコンパクトに必要十分に夫婦の問題を提示していて凄い。
『竜そば』でも感じたけれど、映画は省略の芸術と言われるように、CM的な(短時間で設定を理解させる)スキルは必要になるんだなぁ。

その上で、元と全く変わってしまった世界から出られなくなる彼らは、いまの現実の世界を嫌でも重ねるし、普遍性を保つために世代も性別も超えて多様なキャラを登場させている。CMで奥さんが掃除機をかけてるシーンを描くことが問題になる今の時代に適応している。

テーマは、老いや病にあるけど、それらはいつも予告なく突然やってくるもので、もし緊急性をマックスに高めたら極限状態で人がどう行動するのか、あらゆるパターンを検証尽くしているような映画だった。「最悪の状況をつねに主人公に与えろ」、というシナリオの定石。

老人や動物の少ない余命、若さや美への執着、権力を失う恐怖から人を傷つける者、妊娠と流産、先人や仲間から学ぶことの強さ、有名税…。
特に良かったのは老夫婦になったときに「住めば都」化してしまう人間らしさ。これは救いでもあり恐怖でもある、慣れることと忘れること。

秀逸なオチで、悪にもリアルな動機があるというのも素晴らしい。ルックバック問題でも「想像で悪を描く危険性」が議論されていたし、理由なき悪の怖さはもちろんあるのだけど、JOKER同様、人ではなく行為に罪があるという描き方に好感を持った。

最後は、非日常から日常に回帰した時に感じられる成長を、友達の存在と対して伝えている。その成長こそがフィクションの意義とも言えて、BTTFも恋はデジャヴも透明人間も、フィクション性の高い作品こそ日常の大切さを描ききることが大事になる。監督も影響を語っているようにスピルバーグやヒッチコックの系譜。こういう天使度と悪魔度を両立した映画に憧れる。

時空の変化が崖によって自然発生的に作られているというやや無理のある説明を受け入れさせることも、それをXXXを使うことで切り抜けるというアイデアも、科学的にどうこう以前に物語の描写としてなかなか難しいことだけど、受け入れて見れてしまった。短編サイズみたいな企画なのにこんなハリウッドの規模で実現させてしまえるたしかな実績と実力。インターステラーでも一部こんなシークエンスがあった。

時々入る複雑骨折系のらしいギャグ、相変わらずの監督のカメオ、マーロンブロンドとジャックニコルソン(ミズーリ・ブレイク?)、傷の治りの早さという視点、食べ物は腐らないという境界線、「職業と名前は?」の天丼、冒頭のバスからませた息子、職業を生かしたセリフと展開、開始前の監督メッセージの政治性、メイキングにあるように手作りの崖、歌を聴かせるという感動、迫真のてんかんの芝居、身体的特徴がわかりやすいことで年齢が変わっても認識できる主人公、鬼ごっこシーンを代表とする変態的カメラワーク…。

枚挙に遑がないくらいに見どころのある映画で、遊びはあると言えど丁寧に考え尽くされていてリスペクトが溢れた。

*宇多丸さんの言っている「映画という存在自体へのメタファー」という話メチャ面白い。種明かしはおまけだよね、という件もすごく同意。
https://www.tbsradio.jp/articles/44077/
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