めしいらず

映画大好きポンポさんのめしいらずのレビュー・感想・評価

映画大好きポンポさん(2021年製作の映画)
3.6
充実した人生を送ってきた者よりも、人生につまづいてきた者の方がクリエイター(芸術家)たり得るという部分が、漱石の「草枕」の、芸術の本質を突いた文学史に残るあの名文を思い出させる。以前はどんなにかスマートにイケていた人物であったとしても、その後の人生のどこかで必ずや挫折を味わっているのが当然で、そのことにも同等の分量を割いていたのがこの映画な誠実な姿勢を示している。人生のチャンスもピンチも基本的には誰にも大差ないはずで、だから人生の喜悦も苦悩もそうだろう。名プロデューサー、ポンポに見出され初監督作を任された落ちこぼれアシスタントの主人公ジーンが、様々な困難や葛藤を経ながら映画を完成させるまで。皆の思い入れが詰まった撮影分のほとんどを削らなければならない苦しみ。追加撮影の難しさ。良い映画とは。表現とは。誰の為に作るのか。彼は自己の中に沈潜しながら削って削っていく。そして極限まで削ぎ落として遂に真の自己表現に辿り着くのだ。創作が常に自己表現に行き着く必然。その創作が誰かの心に届いたなら、また新たな芸術家が生まれ受け継がれていくだろう。ジーンが、同窓のアランが自分自身を乗り越えていく過程は、誰の人生にも当てはめ得るもの。ポンポが書いた当て書き脚本の真の意図は、実は役者たちではなくて、最初からジーン監督のことだったのかもしれない。主人公の察しが良くて悩みが些か順調(?)に解決され過ぎる感じもなくはないけれど、予想を超えて素晴らしい映画だった。ラストも粋。
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