まりぃくりすてぃ

美はしき出発のまりぃくりすてぃのレビュー・感想・評価

美はしき出発(1939年製作の映画)
4.0
ロック界には「27クラブ」。。。 
そして映画界には「39クラブ」があるかもね。こっちは死じゃなく誕生だよ、1939(昭和14)年生まれの傑作映画はごろごろざくざく。特に日米両国のその年の充実度がヤバすぎる! ────米国では、『風と共に去りぬ』と『駅馬車』がアカデミー作品賞を争い、『嵐が丘』もデンとあり、『ニノチカ』のグレタガルボが女優キャリア初の大笑いを披露。日本では、『土』と『残菊物語』がキネマ旬報年間ベスト1を争い、『鴛鴦歌合戦』もバンとあり、『東京の女性』の原節子が自立型の “現代女性” を凛々しく美しく最高に演じて女優キャリア初の大絶賛を受けた。(翌々年の真珠湾が、文化的側面だけからみても本当に本当に残念すぎる。『風と共に…』の南北戦争死体累々シーンなどから滲む庶民たちの厭戦意志とか、『残菊…』の一つの命の重みを丁重に扱う当たり前な営みとか、ちゃんと揃ってたのに。。)

さて、この『美はしき出発』も39クラブの佳作の一つといえるね。ピュアハートをもつ女子高生(高峰秀子)が、死んじゃったクズ父・グズグズな兄姉らの代わりに家計を支えようとする。
暗いだけの話?
いいえ、冒頭、大映りの冬富士を背にフィギュアスケート! 戦前にコレ凄くない?って驚くけど、既にその年は全日本フィギュア選手権が第10回大会だってさ。(平成~令和のお家芸、元を辿れば大正時代から盛んなんだね。)
スクリーン内の雪って、無敵。モノクロでも地や山肌の雪だけは魅力や魔力が常に大だったりする。
けれんみなく程よくすべてに体当たりしていく現役高校生そのまんま演技のデコちゃんは、当時14歳。終始一貫スクリーン内にLED灯みたく真っ白な可憐さと清潔さで一輪咲きしつづける主役の、頑張りの象徴が、その冒頭の野外スケート場で着てた純白の外套だ。
これがデコ。
戦後の名作『稲妻』でもそうだった。ドロドロした大人たちに囲まれての “泥中の蓮” 的な真人間役がこれほど似合う邦画スターは歴史上、稀有かも。実際、子役時代から身内の大人たちに金銭的に利用されまくったりして「映画女優なんて辞めたい辞めたい」とグチグチな歩みを強いられた哀しい彼女だから、こういうキャラの時にこそ高カンデラ&高ルクスで輝く!

そんなデコとの初共演となった姉さま役・原節子は、「脇役ですから」的な軽量演技オンリーで薄存在感なんだけど、節子さまは節子さまだから、節子の演技に文句をつけたくはならないね。
主な男優三人(杉本役と同僚役一人と兄さま役)は、どれも似たような細イケメンなので最初見分けつかず、画的にこれがちょっぴり難点だったかな。
一方、画家役をブサメンにする必要はあった? いっそ兄と画家の配役を入れ替えた方がベターかも。
それと、ラストの屋内スケートリンクがちょっと殺風景。冒頭の豪華さが威力すばらしかっただけに、結末のせっかくの「明るい出発」を屋根の下に閉じ込めちゃってるこの描きは、減点対象だね。
ともあれ、、

みんながデコしゃんを好きになれる映画。昔も今も。

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