sanbon

僕のヒーローアカデミア THE MOVIE ワールド ヒーローズ ミッションのsanbonのレビュー・感想・評価

3.6
前作で全て出し切ってしまった感。

前作のあまりの出来の良さに感動してしまい、今回はそれに釣られて映画館で鑑賞してきたわけだが、正直言って今作は配信やレンタルで事足りる出来であったという他にない。

前提として、前作でのレビューの際にも吐露しているが、僕はそもそも「ヒロアカ」をそれほど好いてはいない。

とはいえ、あくまできっちり最新31巻(2021年8月時点)まで読んだうえ(ちゃんとコミックスも買ってるよ!)での正直な意見なのでその点はご容赦願いたいのだが、一番の問題としてはこんなに長々と読んでいる作品なのに話の内容が中々頭に入ってこない点だ。

なにが他の漫画とそんなに違うんだろうと色々考えた結果、原作者である「堀越耕平」先生の"文法の下手さ"が一つ原因としてあるんじゃないかと思った。

とにかく、読みづらくて頭に入ってこない言い回しや言葉選びが多すぎるのと、ややこしくて記憶しづらいネーミングセンスに加えて、構成力にも分かりやすさが足りなかったりする為、息が長い割に印象に残らない作品になっている気がする。(年間300冊程漫画を読む僕が他の作品には感じないのだから、きっと僕の理解力が乏しいわけではないと思う)

絵は上手いんだけど話づくりがいまいちで、流石は過去に2度連載作品が打ち切りになっているだけあるなという感じで、漫画家として成功した今でもその頃のウィークポイントはいまだ解消されていないように思う。

まあ、他の不満点は前回のレビューでも言及しているし、ファンの方にとっては不快な文章に違いはないのでいい加減この場では控えるが、そんなスタンスで期待値もそこそこに今作の鑑賞には臨んだのだが、どう考えても前作でオリジナルストーリーが踏み込める"臨界点"はすでに超えてしまっていた事を、残念ながら再認識する内容となっていた。

まず、安易な"規模間の拡張"が全然上手くいっていない。

映画化作品といえば、まず注目されるのはそのスケール感のデカさにあると思うが、凄まじ過ぎる前作のクオリティを超えようと、日本を飛び出し舞台を世界にまで広げたのはいいが、率直な感想を述べると今回のそれはただ広げたというだけであり、それがなにか意味を成していたとは思えないし、そのせいでキャラクターが各地に分散しすぎてしまい描き込み自体は逆に薄くなってしまっていた。

また、世界規模の大事件に対して、なぜ日本のヒーローだけがあんなに各地に出張っているのかという点も、どうにも腑に落ちない展開だ。

なにか、国外に情報が漏れ出ては困る特別な事情があって、各国の火消しにも日本のヒーローが隠密行動を余儀なくされているとかであれば話は別だが、あれほどまでに世界規模で人命が著しく脅かされているテロ事件に対して、どこの国にも緊急スクランブルが発令されないのは流石におかしい。

それこそ、各国のトップヒーローが登場して共同戦線を結ぶという展開ならばまだ今回の意図も理解できるが、ヒーロー側にオリジナルキャラクターは一人として出てこないし、それ以前に日本もテロの脅威にさらされている状況下で、日本の主戦力がごっそりとその場を離れるというのはあまりに現実味がない事から、もしかしたら今回の設定自体がヒロアカの世界観とリンクさせるにはちょっと無理があったのかもしれない。

そして、今回のヴィランである「ヒューマライズ」も「個性」は人類を破滅に導くという考えの元、個性保持者を無差別に攻撃している危険思想団体のはずなのに、なんでその指導者と直属の部下達が揃いも揃って個性持ちなのかがそもそもよく分からないし、序盤から出ていた幹部クラスの敵が中盤で早々にフェードアウトしたかと思えば、終盤になってからいきなり参戦してくる別の敵幹部なんかもいたりして、今作の敵の描き方は非常に雑な印象を受けた。

更には「デク」の能力が"悪い意味"で劇場用のストーリー向きで、非常に都合がいい設定であることを、奇しくも今作はクライマックスの演出を以て証明してしまっている。

デクは普段、受け継いだ「ワン・フォー・オール」の力が強大すぎるあまり、自身の身体が破壊されないよう力をセーブしながら戦っている為、今回のような"強すぎる敵"に対してはそのリミッターを解除するだけで勝ち筋が容易に出来あがってしまう。

要するに、脚本家自身も自制心というリミッターを外してさえしまえば、いわゆる"ゴリ押し"がデクというキャラクターの性質上、いとも簡単にまかり通ってしまうのだ。

本来、今作の敵のような"特殊な攻略法"を要する相手なら、戦略的な頭脳戦やテクニカルな技ありの戦法などを用意して然るべきであり、それこそ作中で張り巡らせた伏線などを用いて打破させるのが定石だろうし、その突破口をどれだけドラマチックに演出できるかが脚本家としての腕の見せ所だとも思うのだが、今回の展開ははっきり言ってそれを放棄したともとれるほどおざなりなものであったし、90年代頃までの"脳筋ジャンプ映画"のそれを彷彿とさせるような、皮肉を込めた言い回しをすれば往年の少年漫画にあるような、まさに"王道"展開だったと言える。

しかし、令和の時代にあって前作のような良作の後発作品という位置づけでそれをやられてしまうと、正直ガッカリ度合いのほうが強くなってしまうし、前作で高いハードルを越えてしまっていた分「やっぱりか」と不安が的中してしまった気分になってしまった。

また、今回のオリジナルキャラクターである「ロディ」の個性についても、最後の最後まで含みを持たせておいてその結果があれだけでは非常に物足りなさが残るし、どこか肩透かしをくらった感覚に陥ってしまう。

仮に、ヒロアカが動物の相棒なんてあり得ねえだろ!というような超現実路線の世界観ならいざ知らず、べつにそれが不自然ではない作品の中にあって、実は"あれ"が個性の正体でしたという種明かしには「それ能力である必要あった?」と素直に思ってしまった程である。

ただ、ロディの声を務めた「吉沢亮」の声優スキルは半端ないなんてもんじゃ無い。

もうただのプロである。

役者としての演技と声優としての演技を、あそこまで差別化して演じられる俳優など、芸能界広しといえどほとんどいないのではないだろうか。

というか、ゲスト声優ってそもそもその人だとわかってもらうために呼ばれるものなのに、今作の吉沢亮は事前にそれと知っていなければ、まず気づかないレベルで声色をコントロールしていて、そこの本気度にも関心させられた。

「ジャンプ」本誌でも、現在最終章の真っ最中である事から、もしかしたらヒロアカの映画化は今作が最後になるのかもしれないが、やっぱりどう考えても2作目であの展開を出すのは早すぎたし、今作のクオリティを考えると仮に次回作があったとしてももう右肩下がりになるほかないのではと思わざるを得なかった。

それにしても、ハリウッド版実写映画の監督を「佐藤信介」が務める事が先日発表されたが、日本人がハリウッド級の予算をちゃんと使えるとは到底思えないし、ヒロアカは日本よりも海外人気のほうが高いんだから、ちゃんとヒロアカ愛がある現地の監督がやった方がよほどいいものが出来るんじゃないかなと個人的には思ってしまった。
sanbon

sanbon