さいごん

くれなずめのさいごんのレビュー・感想・評価

くれなずめ(2021年製作の映画)
3.9
松居監督の実体験が基になっていると聞いて納得。
悪く言えば自己満足、良く言えば私信なんだろうな。

客観的に見るとぶっ飛んでいる箇所が沢山あってそこで振り落とされる人の方が多いのは分かる。

監督自身も恐らくそんなものは百も承知だろう。
でもそれが登場人物のあのくだらないノリとかギャグとか、本人達でも本気で面白いと思っていない感じと妙にシンクロしていたりもする。

そもそも何かを作る時にどこまで観客に合わせるかというのは永遠の課題だと思うわけで。
もちろん他人が見て面白いと思わなければ意味はないんだけど、一方でそれを追い求めていくと逆にどんどん少なくとも自分にとっては面白くなくなっていく。

この映画の話に戻るけど、インタビューを読むと最初に(例の皆が度肝を抜いた)心臓のシーンを思い付き、そこから脚本を書いたとの事。
うん、だからやっぱり最初から万人向けの作品なんて狙ってないんだよね。

でも決して芸術映画なんてものじゃなくてしっかり大衆映画として面白いところも沢山ある。
登場人物の現在がまさに人生においてくれなずんでいる時間という描き方も良かったし、なにより結婚式のあとの二次会までの間というシチュエーション設定がまず見事。
「くれなずめ」と命令形の造語をタイトルにしたのも見終わった後に考えるととても良かった。
あとは役者さん達のやり取りは本当に全員素晴らしいし。

もっと分かりやすいものを作ろうと思えば出来たんだろうけど、それをしたらもうこの映画である必要はなかったとも言える。
ちなみに僕はこのあとに作られた「ちょっと思い出しただけ」という外に向けて作られた新境地の素晴らしい映画を先に見ている。
言ってしまえば「明日からちゃんとするから今日は好きな事をやらせて!」と言っている人が未来では本当に明日からちゃんとする事を知っている状態。
そうすると「今日は好きな事をやらせて!」で作られたこの映画を余計に擁護したくなってしまう。

まぁそりゃ「ちょっと思い出しただけ」の方が好きなんだけどね。
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