しゃび

くれなずめのしゃびのレビュー・感想・評価

くれなずめ(2021年製作の映画)
3.5
いわゆる「群像劇」は、登場人物個々のストーリーが互いに交差していく様を描くことが多い。

しかし、この映画は個々ではなく、あくまで「一塊の群れ」として描かれていて、キャラクター個別のストーリーはほとんど触れられない。

集団として1つのストーリーを描くのは難しいが「共有された強い事実」をもって、群像そのものを描くことに成功している。

「共有された事実」で集団を描く構図は、スポーツものにも似ているが、本作には喪失感や空虚感も織り混ざっていて好みだった。



ところで、
リアリティを濁せるのが、映画の醍醐味の一つだと思う。

この手の現実味と非現実味を織り交ぜた作品は「感情のリアリティ」がより大事だ。感情まで非現実的だったら、観客は何を信じたらいいのか分からなくなる。

人間は受け入れられない感情を簡単に表出することができない。
悲しさを顔に出せるのは、悲しさを受け入れているか、悲しんでいると人に知らせたい時だ。

そのような意味で、ぼくはこの映画の感情表出にところどころ違和感を感じた。

たとえば、
受け入れ難い衝撃的な事実を知らされた時、すぐに誰かに電話したり膝から崩れ落ちたりできるだろうか。
大学の合格発表のような、あらかじめ予測できるケースならまだしも、急にメールで事実が告げられても、しばらくただ呆然とするくらいしかできないのではないか。


披露宴から二次会までの、間延びした3時間を描くなど、構成の面白い作品だったので、願わくば感情表出のリアルさがもうすこしあったら、よりいいなと思った。
しゃび

しゃび