かすとり体力

BLUE/ブルーのかすとり体力のレビュー・感想・評価

BLUE/ブルー(2021年製作の映画)
3.7
『空白』『神は見返りを求める』『犬猿』『愛しのアイリーン』『ヒメアノ~ル』の吉田恵輔監督作品ということで、(改めて見るとやはり凄いラインナップ・・・)重たいボディ・ブローをくらうことを覚悟して鑑賞したが、他作品に比べると(あくまで比べると、だけど)軽やかな仕上がり。

ボクシング映画ということで、まずはボクシングの試合がちゃんと成立してないと興醒めするところだが、そこに関しては全く無問題。
松山氏、東出氏、柄本氏、全員が「よくぞここまで・・・」と感嘆するレベルでガチで動けていた。この時点で拍手。

また、作品のテーマ設定も良き。

私、「努力すれば夢は叶う」という言葉は、大人が子どもに伝えるメッセージの中でもトップクラスで害悪な虚言だと従来思っていた。

これ、まずファクトとして嘘だし、これを伝えると子どもを追い詰めちゃうじゃん。

「夢は叶えないと行けないんだ」「夢が叶わないってことは、自分の努力が不足してるんだ」って思っちゃうじゃん。

本来我々大人が子どもたちに伝えるべきは、
「夢は叶わないかもしれないけれど、叶う確立が若干程度は上がるから、努力はしたほうが良い。あと、夢が叶わなかったとしても、地に足を着けて楽しく生きていくことは全然可能だから、まぁ気楽に頑張れ」というメッセージだと思料。

本作、(ここまでストレートではないものの)努力したからと言って夢が叶うわけではない、ただ、叶わなかったとしても、日々の生活は当たり前に続いていくし、生きるってまぁそういうことだよ、という、
上述の私の思いに近いものをテーマとして含みおいているように感じました。

同監督の『空白』を観たときも感じたけど、これ、仏教でいうと「諦念」という概念に近い。
(『空白』では、「人間同士の分かり合えなさ」というテーマに対してこの「諦念」が発動されていた)

この「諦念」をもう少し平易に言い換えると、「前提条件をファクトとして認識した上で、「前向きに」諦める」ということ。

「あ~もう夢を叶えるのとか無理。もう知らね」と投げ出すのではなく、

「なるほど。夢を叶えるのは無理か。でもとりま人生は続くから、いったん今日は寝よ。そして明日、この先の生き方考えよ」的な。

だからこそ、「努力しても夢は叶うわけではない」というある種重ためのテーマを扱っていながら、冒頭述べた通り、余韻としては未来に開けていて軽やかなんだよな。

そしてまた、このテーマを、普通はサクセスストーリーとして描かれることの多いボクシングをテーマにやっちゃうってのが、ひねりが効いていて良し。

ということで、安定の吉田監督作品でした。

同監督の次の公開予定作品『ミッシング』が石原さとみ主演かつ激重系ということで、
今から心構えをしておきます。
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