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竜とそばかすの姫のしゃびのレビュー・感想・評価

竜とそばかすの姫(2021年製作の映画)
4.5
いろいろな映画の評価をみていると、
「よくできている」という表現をよく見かける。

多くの場合、
クリストファー・ノーランの映画のように、緻密に練り上げられた作品に対する評であることが多い。

そのような意味で『竜とそばかすの姫』は「よくできている」とは対照的だ。

なにしろ人物描写がめちゃくちゃ甘い。
幼馴染の意味深さに背景が全く見えないし、ガストンのような男もチープに描かれすぎだ。 

ストーリーも、主人公がスターになる過程があまりに端折られすぎていて、どういう建て付けのコンサートなのかもよく分からない。

そのような観点で見たらひどいもんである。


ただ。
ぼくは違った意味で「よくできている」と感じた。

メタバースのような世界。
未来において誰しもが想像したことがあるだろう世界。

この世界を使って回収されたのは、母の真相だ。

「母はなぜ彼女を置いて逝ってしまったのか」

母娘に関する悲しい物語を、
夢ある世界を通じて回収させるという組み合わせは本当に「よくできている」。

この映画はいろんな視点で見る物語ではない。ただただ、母と娘の物語だ。


母が文字通り身を挺して見ず知らずの子を助けた理由。
鈴が自らの身を晒して、見ず知らずの子を助けた理由。

愛とはそのようなものであると思う。
恋人に、妻に、子供にだけ注がれるものではない。袖擦り合うだけの他人に対する愛もあるのだ。

命をかけるような大それたものとは限らない。具合の悪そうな人がいたら席を譲りたくなるように、思わず手を差し伸べずにはいられなくなるという感覚を、人間は動物として持っている。


ツッコミどころの多い映画だと思った人もいるだろう。でもぼくは本来、映画とは抜け目ないものではなく、潔いものであってほしいと思う。

だって、総合芸術なのだから。
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