耶馬英彦

シャドー・ディール 武器ビジネスの闇の耶馬英彦のレビュー・感想・評価

3.5
 世界の戦争が終わらないのは、戦争を続けさせたい勢力がいて、それは主にアメリカの軍需産業だと思っていたし、戦争に関する映画のレビューで何度もそう書いた。本作品はその考えが間違っていなかったことを証明してくれた気がする。
 アメリカの軍需産業の市場規模は年間約70兆円である。米軍だけで購入するには多すぎる。武器商人は死の商人だ。紛争があればどこにでも売る。他人の死を商売にできるほど、地球の人口が多いということなのかもしれない。例えばアフガニスタンでは、1996年の人口が1840万人だったのに、同年から続くタリバンの支配の戦乱のもとで人口は右肩上がりに増加の一途をたどり、現在では3800万人を超えている。
 日本では自動小銃などを携えた男たちが街を歩けば、たちまち通報されて逮捕されるが、紛争地域はそうではない。その武器はどこから買うかというと、アメリカの軍需産業から購入するのだ。
 アメリカの軍需産業は歴代の政権を動かし続けている。ジョージ・ブッシュもバラク・オバマも世界の紛争地域から軍を引き上げることはなかった。ドナルド・トランプがアフガニスタンやイラクから駐留米軍を削減したのは、もしかしたら軍需産業からの献金が少なかったからかもしれない。税金を別に振り分ける業界からの献金が増加したためかもしれない。
 本作品で目新しかったのは、ドローンが既に武器となっているという指摘だ。映画「エンド・オブ・ステイツ」ではのっけから大統領がドローンで攻撃されるシーンがある。4つのプロペラがあるお馴染みのドローンだ。しかし4つのプロペラがあるタイプでなくても、無人の軍用機はドローンと呼ばれていて、20世紀末から既に実用化されている。武器を備えているから、衛星通信を利用してアメリカ本土から遠隔操縦し、地球の反対側にいるターゲットでも自由に殺すことができるのだ。
 アメリカの軍需産業はどこに向かおうとしているのか。おそらくその答えはない。哲学がないからだ。儲かればそれでいい。今後ドローンは精密化され、特定の個人をピンポイントで殺すことができるようになるだろう。操縦者はエアコンの効いた安全な場所にいるから、敵に狙われることもない。ビデオゲームのようにソファに座ったまま、画面に表示される敵を殲滅する。万が一敵から反撃されて撃墜されたら、別のドローンを飛ばせばいい。自分が傷つくことはないのだ。
 もしこういったドローンがテロリストに売り渡されたら、地球に安全な場所はなくなる。アルカイーダが購入したら、世界中の米大使館が狙われるだろう。北朝鮮が衛星の打ち上げ実験だと称しているミサイルの実験は、もしかしたら本当に衛星の打ち上げ実験かもしれない。自前の衛星を使ってドローンを飛ばすのだ。地球に安全な場所はなくなる。
 本作品の原題は「Shadow World」である。我々が日常的に目にしていない場所、空を飛び交う無数の人工衛星や、海面下を音もなく進む潜水艦、虫にしか見えない小さなドローンなど、既に危険はそこら中に張り巡らされている。軍需産業は恐ろしい。自制心も倫理感もなく武器を売りまくり、儲けのために政治も利用し、地政学的現実を分析して世界中に武器を売る。日本の軍需産業もそのうち、倫理感も節操もない政権を通じて他国に武器を売るかもしれない。いや、既に売っているかもしれない。その原資は我々の税金なのだ。
耶馬英彦

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