Takumi

戦場のメリークリスマス 4K 修復版のTakumiのレビュー・感想・評価

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戦わない戦争映画、奇抜なキャスティング、同性愛。40年経っても鋭さは健在。坂本龍一の追悼上映を鑑賞。

個人的に大好きなのは、ヨノイがセリアズの裁判に出席するシーン。罪状が読まれる間、ヨノイは異常なまでの熱い眼差しでセリアズを見つめ続ける。ゆっくりとヨノイにズームしていくカメラワークと、どこか心を乱される坂本龍一の音楽が合わさり、ヨノイの「恋心」が的確に表現されている。物語の根幹が始まる異様なワンシーンだ。

一方、ハラとロレンスの交流も、この映画の大事なテーマだ。

多様性が重視される昨今、社会では自分と違う存在に対する「理解する努力」が求められている。同性愛や異文化に対する差別は減りつつあるかもしれないが、同時に「認めることが出来ない=悪」という構図も出来上がっているように思う。

この映画では、自分と違うものを「認める事ができない人たち」が描かれ、高圧的なその態度に、見るものは嫌悪感を覚える。

しかし、それは決して彼らの心が悪いのではなく、時代や戦争という社会的な背景が原因で、認められない環境が出来上がってしまっている。ラストシーン、ロレンスと話すハラの少年のような眼差しは、戦時中とはまるで別人で、このシーンを見ると、毎回胸がキュッとなる。

かつて鋭い日本刀のように社会に斬り込みを入れたこの映画は、未だその鋭さを失わず、これからも永遠に社会に斬り込みを入れ続けていくのだろうと思う。
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