開明獣

茲山魚譜 チャサンオボの開明獣のレビュー・感想・評価

茲山魚譜 チャサンオボ(2019年製作の映画)
5.0
韓国の名優、ソル・ギョング出演作品を愛でる、その5

開明獣が選ぶソル・ギョング出演する作品のお薦めは次の3つ

「オアシス」
「殺人者の記憶法」
そしてこの、「茲山魚譜」

茲山とは、黒き山のことで、韓国の南西にある黒山島のことを指す。黒いという字は縁起が悪いということで、韓国では黒いという意を表す別の漢字、茲を当てたという(後世では諸説異論あるようだが、それはここでは重要ではない)。

魚譜とは、海洋生物の図鑑のこと。茲山魚譜とは、黒山島近辺の海洋生物の図鑑のことを指す。

19世紀が始まったばかりの頃の朝鮮半島では、厳しい基督教弾圧が始まっていた。丁若銓(ソル・ギョング)、丁若鏞(イ・ジョンウン)の兄弟は、基督教に関わったとされる科で、それぞれ島流しの刑にあう。

若銓が配流された黒山島は、貧しくも自然豊かな土地であった。若銓は、そこで、千字文を独学で学び、四書五経(劇中では四書三経と春秋・礼記と呼ばれる)を読まんとする知的好奇心旺盛な若者、昌大(ピョン・ヨハン)と出会う。2人はやがて、協力しあって魚譜を作り上げようとする。

韓国は詩をよくする国だと、翻訳家の斎藤真理子氏から学んだ。弟の若鏞は、兄を慕んでかような詩を詠んだと謂ふ。

羅海耽津二百里
天設巃嵷兩牛耳
三年滯跡習風土
不省玆山又在此

"私が住んでいるところ(羅海耽津)から二百里あまりもある険しい牛耳山を天が作ったのか。
三年もの間、ここに住んで風土を習ったのに、
「茲山」がここにあるのを私は知りもしなかった。"

白黒で描かれる世界は山水画のようであり、素朴な絶海の孤島の厳しくも野趣溢れる生活を活写している。高潔にして高邁な思想を持ちながらも、俗なことから目を背けず、むしろ衆に混じりて、その価値を能く知らんとする若銓は、まさに今の多様性を重視する方向性の先駆けといえよう。

知識とは、ただ知ることにあらず。経験と併せて活用してこそ、初めて識ると成す。草庵の窓を開けて月星を眺めながら杯を傾けたくなるような逸品。
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