とむ

アメリカン・ユートピアのとむのレビュー・感想・評価

アメリカン・ユートピア(2020年製作の映画)
3.8
ストップ・メイキング・センス4Kリストア公開を記念して特集上映されていたので、日本橋TOHOシネマズにて。


実はトーキング・ヘッドというアーティスト自体の名前は聞いたことあっても、曲とかどんな人物・パーソナルかとかはぶっちゃけ知りませんでした。
(名前に関しても多分ジョジョのスタンド経由だし)

なので今回初・トーキング・ヘッドだったんですけど、想像していたより愛嬌のある表現方法をする人たちだなぁというのが第一。
デヴィッド・バーンの出立なんかは平沢進的な、偏屈なんだけどどこか憎めないおじいちゃんって感じなのも可愛らしかった。

ただ、主張しているテーマや歌詞は一貫していて、やはりマイノリティの側に寄り添うことの多い感性の方なんだろうなというのは今作を経て大まかに理解しました。
(本人が意図的にその側に立とうとしているかはまだわかりませんが。)

その主張しているテーマがどんだけハードで重たくても、どこかポップでメジャー感のある表現になる感じがスパイク・リーという作家との親和性が高く、この人が監督をする事になったのも必然だったんだろうなと見終えてしみじみ感じました。


ライブパフォーマンスとしての質の高さは言わずもがな、スパイク・リーが監督として入ったことによる映画的昇華も素晴らしかった。
舞台を納める系の映像作品には曖昧になりがちな「舞台上にカメラを置いて納める」という演出もかなり効いていて、特にかなり低い位置から客席をとらえるカメラだったり、暖簾的な使い方をしていた美術越しにとらえるカットだったりが素晴らしかった。

あと「Hell You Talmbout」で、理不尽な暴力の犠牲になった人々の名前を叫ぶパートで各個人の写真を持った人物(おそらく遺族?)の別撮り素材を入れ込むのがめちゃくちゃスパイク・リーの演出だなぁと思いました。


冒頭のデヴィッド・バーンとスパイク・リーとの対談で「楽園(ユートピア)というのは、常に未完成で完璧を目指す過程のことである」という旨のことを言っていて、そのコメントがやたら腑に落ちました。
「楽園」って、ことフィクションだとディストピア的というか、「人工的な(歪な)安息地」的に描かれることが多くて、それってなんでだろうと考えた時に閉じた空間として描かれるからなんだろうなと今作を経て思い至った。
つまり、統治者(教祖)がいて、規則があって、それを満足げに享受する住民のみで完成されてる時点でそこはもはや楽園ではないんでしょう。
同じ目標を見て、そこを目指し続ける仲間たちがいて、常に進み続けているからこそそこは楽園たりえるんだろうなと。

それを踏まえてラストで歌う曲が「Road To Nowhere(僕たちは道半ば)」という、
テーマがハッキリしてるな〜!と感心させられました。


今度2月にやる4Kリストアのライブ映画も観に行きたいな〜
とむ

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