とむ

オッペンハイマーのとむのネタバレレビュー・内容・結末

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

ここまでわかりやすく弾劾の物語だったとは…

「わかりやすく」というのは、あくまで断罪映画としてであって、ストーリーテリングとしては相当高度な物理学や分子力学を絡めたやり取りや人間関係を何の説明もなしに展開していくから、そういう意味ではかなり難しい映画だったと思います。

ただ、要所要所を摘んでみれば、
オッペンハイマーの苦悩を描きつつも、その功績を"断罪"する映画であることは間違いない。

エミリーブラントが劇中で「罪を犯しておいて被害者を気取れるとでも?」という意図の発言を劇中で二度ほどしているのと、
何よりラストのアインシュタインとのやり取りが一番作品の意図を伝えようとしてる気がしました。


尺は180分と長いはずなんだけど、終始土石流のように流れていく台詞の内容を理解するのに必死で鑑賞中はあっという間だった。
それに加えて、分子爆発を想起させる少しグラフィカルな(CM的な)ショットが一瞬挟まったり、時系列の前後によって退屈させられない…というか、息を吐く間もないと言った方が正しいかも。

余談ですが、一部で「ノーランは時系列シャッフルするストーリーしか描けない病だ」的に評している人がいましたが、今回に関してはそこまで複雑な前後感ではなかったと思いました。
それこそフィンチャーの「ソーシャル・ネットワーク」とか、同じ伝記モノ映画で言えばせいぜい「イミテーションゲーム」くらいの時系列前後レベルだったんじゃないかな。
(ぶっちゃけ今回の作品に関しては時系列を前後することに対して物語に内包される意味や意図はないと思うので、むしろ観客の方が穿った見方をしてしまっている気がしました)


そして会話劇として、ある種静かに展開していた物語が文字通り「爆発」した瞬間オッペンハイマーにとっての地獄巡りが始まるという構成もら物語としてはかなり飲み込みやすかったと思いました。

作品自体もオッペンハイマーが目を開く(自分の罪と向き合う)ところから始まり、
最後には結局目を閉じてしまってる(自分ひとりの都合では収拾がつかない事態になってしまった)という構成もそれを表してるんじゃないかな。

実際はどうだったか知らないけど、ソ連抑制のために開発してたはずが第二次世界大戦において日本との交戦を抑えるため、とあくまで大義名分という形で自分のやりたいことを実現しようとしてるのがなんとも独善的というか…

近い作品で言うと、自分の罪と対面してしまった男の"死ぬまで続く生き地獄"を描いたという意味で、ドキュメンタリーなので毛色は違いますが「アクト・オブ・キリング」が近いかなと思いました。

これまた余談ですが「広島と長崎のことが描かれていない!」と喚いてる人はこの本質が全く理解できていないと思います。
「過程」を描かなくとも「結果」や「罪」というのを描けるのが映画っていう媒体の興味深いところなんですから。
ていうか皮膚がドロドロに溶けた女性を幻視したり、足元に転がる黒コゲの自体を踏み抜いた幻覚を観てるシーンがあるんだから十分すぎるでしょう。
彼はあれを死ぬまで不意に観続ける呪いにかかったと思ってください。


ただ、こんだけ偉そうに語っておいてストーリーの詳細に関しては3割も把握し切れた気がしないので、IMAX上映中に何度かは観に行きたいです。
今度は登場する物理学者や事件や裁判について予習してから行こう…笑


自分達がしでかしたことの本質が理解できずに終始ハッピーな町の人々と、
ラストカットの映画が公開されたよりも先の未来を危惧するカットの悍ましさが、未だに脳に焼き付いて離れない。
とむ

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