ニャーニャット

クライ・マッチョのニャーニャットのレビュー・感想・評価

クライ・マッチョ(2021年製作の映画)
3.8
クリント・イーストウッドが久々に実話ではない「物語」を撮った「クライ・マッチョ」。この映画にはとにかく死の匂いが漂う。
題材は「グラン・トリノ」とかに似てるんだけど、今作は大きなクライマックスもなく、クロスロードもなく、淡々と進行する。「グラン・トリノ」のように直接的に死を扱うわけではなく、クリント・イーストウッドの映画にしては珍しく誰も死なない。なのに、死の匂いは今までのイーストウッドの映画の中でもっとも色濃い。

もちろんイーストウッドの老成によるものもあるんだけど、動物や少女たちが幸せそうに暮らすその村は天国のよう。聖マリア礼拝堂を寝床にして、あたかも告解かのように過去を語るマイク。ここら辺の描写だけでも意図された演出だとわかる。カウボーイであるマイクがそのアイコンである服や帽子を脱ぎ、現地の服に着替える描写も象徴的。
ラスト、マイクが国境を越えずにラフォを見送り、マイクはメキシコの村に戻るんだけど、この物語の主旋律は、「老成した男が、青年をアメリカに送る道中、本当の男の強さとはなにかを伝える」というものである一方で、その副旋律としての「青年が老成した男の魂を浄化してあげて死の世界へ案内する」というものがあり、この読み解きがないとこの物語は少々物足りないものになる。最後の逆光な中でマルタとダンスを踊る神秘的なシーンも持つ意味が変わってくる。だいたい、そうじゃなかったら、わざわざそんなシーンをラストに入れないからね。ラフォと別れたところで終わればいい。

なんかイーストウッドも凄いところまで来たなあ。あと何本イーストウッドの映画が観れるんだろ。