Kachi

クライ・マッチョのKachiのレビュー・感想・評価

クライ・マッチョ(2021年製作の映画)
4.1
【人生と重ね合わせるロードムービー】

派手なアクションや急展開がないため、やや退屈な作品だと思われるかもしれない。本作も前作の「運び屋」と同様、イーストウッド監督が指揮を取ったということを念頭に置いて観なければよく分からないのだろう。

ストーリーラインは極めてシンプルだ。昔、落ちぶれた自分を救ってくれた友人の恩を返すため、メキシコに囚われた友人の息子を連れ戻す。以上。マイクは並々ならぬ恩義を友人に感じているし、何より人生を長く生きてきたが故に、無鉄砲な行動に出ることは考えにくい。つまり、この約束は果たされることが予め決まっている。

とすると、本作の楽しみ方はストーリー展開の妙ではなく、描写の中から象徴的な部分を抽出して、そこから得られる示唆をあれこれと考え、思考を反芻させることだろう。

そのような考えで本作を観ると、象徴的なシーンが多い。

・車を次々と乗り捨てること
→人生には前に進むために然るべき乗り物があり、アクシデントがあればその都度軌道修正をすべきだ

・遠回りをしながら米墨国境を目指すこと
→人生には遠回りがつきものだし、遠回りの中での出逢いに彩りがある(最たる例が、あのメキシコ人の未亡人との出逢い)

・チキンの名前がマッチョ
→少年の強がりの象徴。最後にマッチョを手放すことは、少年が覚悟を決めて去勢を張ることをやめた心情描写であろう。

書いてしまうとチープなのだが、イーストウッドは観客がそれを読み取り、感じ取ってくれると「信頼」して直接描写を避けている。物凄く説教臭くなる可能性もあった本作を、抑制の効いた作品たらしめているのは、映画という表現方法の手練であるイーストウッドの成せる技なのだろう。

「俺は運び屋では無い」は、笑った。
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