Jun潤

Arc アークのJun潤のネタバレレビュー・内容・結末

Arc アーク(2021年製作の映画)
3.5

このレビューはネタバレを含みます

2021.06.26

「愚行録」「蜜蜂と遠雷」の石川慶監督作品。
アメリカの小説家ケン・リュウ原作の同名短編小説を芳根京子主演で映像化。

医療技術、特に血液に関する技術が進展した近未来の日本を舞台に、老齢と死を克服し不老不死となった女性の17〜135歳の人生と周囲の変容を描いた作品。

これはなかなか評価が難しい作品でしたね。
人間ドラマでありSF作品、宗教的でもあり生と死という人間にとって普遍的な概念を扱った、個人的に難しめな作品でした。

作中の描写から察するに2060年代頃から物語が開始。
まずは不死ではなく遺体を生きている姿のまま保存できるようにする「プラスティネーション」。
こちらの場面では「愚行録」で見たような本当に作品世界で生きているかのような役者陣の演技が印象的で、実際にそのような技術があった場合、自分は何を望むのか、考えさせる内容でした。
そして踊るように体系的に「プラスティネーション」を学んでいく主人公・リナによる舞のような施術。
これは「蜜蜂と遠雷」のように演技とはまた違った表現方法でもって心情を伝えにきていましたね。

そしてついに不死になる技術が完成し、死が遠い存在となる。
これは考えさせられますね。
不死に対する賛否、技術の上限から漏れた人間による神への冒涜への議論のすり替え。
実際にそうなったら死なないことを望むのか、そして作中にもあったように自殺へと身を投じてしまうのか。
あとはやはり世代が交代しないからこそ起きる技術や思想の継承、食料問題など、作中では触れられていなくてもそういうことも起きるんじゃないかと思いました。

印象的だったのは89歳の場面。
白黒だったのは、長く生き続けていると色という刺激がなくなってしまうということなのかとも思いましたが、ラストで永遠の命を捨てて死を受け入れた135歳では色がついていたということは、人間にとっての死とは世界にとっての色と同じ、なくてはならない存在だった、というのが作中で描かれた答えだったのではないでしょうか。

評価が難しいと書きましたが、単純に人間ドラマとして見るとリナの感情や行動原理の由来などが作中からは感じ取れず、悪い言い方をすると少々場当たり的にも見えてしまった印象です。

演技についてはリナを演じた芳根京子がずっと変わらぬ存在であったからこそ、脇を固めた寺島しのぶ岡田将生小林薫の変わることを受け入れる姿、不死になることを拒否する姿が印象に残りました。
Jun潤

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