ジャン黒糖

トロピック・サンダー/史上最低の作戦のジャン黒糖のレビュー・感想・評価

3.9
トム・クルーズ映画の感想を投稿し続けた結果、自分のfilmarks上のMypageがトムの顔だらけになってきました笑
綺麗な横顔ねぇ。

さて、ジャケットには映っていないけど引き続きトム繋がりで本作!
脇役ながら、一流スターらしくやっぱり美味しい所はゴッソリ持っていくと同時に、脇役であっても灰汁が強いキャラをここまで嬉々として演じてくれる彼のサービス精神、パブリックイメージを逆手に取ったユーモアセンス!
流石としか言いようがないよな。
(※脇役の話です笑)

【物語】
新人映画監督デミアン・コックバーンが手掛ける戦争映画『トロピック・サンダー』の撮影は開始早々、トラブル続出。
アクションスターのタグ・スピードマン、人気コメディシリーズ主演のジェフ・ポートノイ、アカデミー賞5度受賞の名優カーク・ラザラス、強性飲料CMに起用されている人気タレント アルパ・チーノら、それぞれに強烈な個性を持った豪華主演陣を監督としてまとめあげられていないことが原因として挙げられていた。
このままいけば製作中止の危機に。

そこでデミアンは、原作者であり戦争経験者でもあったフォーリーフからのアドバイスのもと、ジャングルの奥地にキャストたちを放置し、彼らの演技を遠巻きに撮影することで自然な恐怖を演出する案を企てるのだが、彼らが訪れた先は実際にテロリストたちが潜伏している地域だった…。

【感想】
劇中内の同名映画に出演するキャストらの過去作の予告編やCMで始まる冒頭、ここがまずこの映画のその先の展開に対するフリとなっていてここだけ見返してもなるほどな発見もあり良かった!
のっけから露悪的で下品なギャグの連続で、正直最初は笑えるというよりちょっと引いたりもした笑

ただ、これでもかという物量の下品な笑いによって、社会、人々の"センシティブな領域"に対し蹂躙していくことで、この映画よりシビアな現実社会や、普段我々が観ている映画が描く虚構、エンターテインメント性が却って際立って見えてくる、と同時に不思議とポジティブな気持ちが湧き立つ映画でもあった。
(そんな大層立派なメッセージのある映画では決してないけど!)

・舞台となるのは文化圏の異なる敵地
・かつては人気アクションスターながら近年は興収も人気も落ち気味のキャリア
・どんな特殊技術、演技力を駆使してもなり切れない人種の壁
・俳優とエージェントという友人でありビジネスパートナーでもある関係性
・大衆的に消費されるCMでのパブリックイメージと異なる性的指向
・映画における障害・子役の扱い
・カリスマ的上司のもとでなかなか発揮できないプレゼンス
・かつて戦争を経験したことを書籍化した男が抱える真実

…などなど、
この映画で描かれる舞台、人たちは1人を除いてすべて何かしらのセンシティブな領域を持っている。
だからこそ、一人一人の物語に、図らずもエモーショナルなドラマを感じさせる。

いままでは自分には出来なかったことがあった。
でも、この不本意ながら巻き込まれた戦地での経験を経て、自分は変わっていけるんだ。
という、間違っても混じりっけなしに下劣100%の映画ながら、観終わってみると不思議とポジティブな気持ちにさせてくれた。

そして、下劣ながら、ここでギャグとして描かれる出来事と近しいような悲惨な事件は、悲しいことに冗談抜きで実際に起こり得るのがこの現実でして。
身体的、精神的ハンディギャップが商業的な感動作として消費されるということはその作品の良し悪し問わず普通に世界中で起こる話だし、子供たちが実際の戦地で兵力として利用されてしまう状況も実際にはある。
本作はついつい笑って観ちゃうんだけど、でも笑えない現実は、確かにある。

戦争映画の撮影現場、という題材によってこれでもかと不謹慎なギャグとして詰め込んだ本作、普通にすげぇ映画だなと感心してしまった。


そして、センシティブな領域に対しづけづけと蹂躙していく一方、劇中唯一何者にも邪魔され得ない無双の男がトム・クルーズ演じるレス・グロスマン。

見た目のインパクトもさることながら、彼はこの劇中内のヒエラルキー上のトップに立つ人物=スポンサーとして、一切弱い部分を見せない。見せないというか、見えてこない。
そのため、風格から感じるカリスマ性が半端ない。

序盤、撮影が難航するコックバーン監督に対し「俳優に言うこと聞かせたければケツを引っ叩け」というが、これがフリとして効いてるラストのアレとか最高。

あと、本物の戦地で現地テロリストによってタグが人質になったとわかったときも、彼のエージェントであるリックが動揺する一方で、レスは敵に対し怒鳴り散らして電話を切ったあと、さりげなく「相手の正体を突き止めろ」と指示する場面も、細かいシーンなんだけど、彼がただの横柄な男ではなく、ちゃんとリスクに対して対処する男だとわかる。

もうエンディングのすべてはレス様が持っていきますわ笑

この奇怪な役を、よくぞここまで嬉々として演じたな、というその一点でやはりトム・クルーズのサービス精神、恐るべし。


また、当然メインのキャスト陣も良かった。

主演タグを演じるベン・スティラーは、もういかにも不謹慎なギャグやってますって顔でボケるので、たちが悪い笑

カーク演じるロバート・ダウニー・Jrは黒人になりきろうにもなり切れない、それどころかオーストラリア出身であることを共演者にバカにされたりする。
しかし、彼は彼で名優らしく毅然と振る舞おうとする。
本作でロバート・ダウニー・Jrはアカデミー賞助演男優賞にノミネートされ、当時話題になったことを覚えているけれど、いざ本作を見てみると皮肉のきいたブラックジョークだらけの本作で黒人役をメソッド演技で演じようとするオーストラリア人、という設定も相まって、ノミネート自体がなにやら冗談のようにも感じてしまう。
同年、彼は『アイアンマン』で主演し、その後の巨大なサーガにとてつもない貢献を果たしていくことになるという点もまた感慨深い。


そしてマシュー・マコノヒー演じるリック。

彼はタグのエージェントというビジネスパートナーとして、そして古くからの友人として、タグのスター性を信じている。
その熱量がちょっと変じゃない?と思わせる程度に彼もまた変人ぶりが最高だった。

これは観賞後調べて知ったことだけど、このリック役は実はオーウェン・ウィルソンが演じる予定だったところ、撮影数週間前に自殺未遂により急遽降板となり、代役としてマシュー・マコノヒーが抜擢されたという。
芸達者なマシュー・マコノヒーとあって、リック役がこれはこれでたしかに最高だった。

けど…
ないものねだりをいえば、『スタスキー&ハッチ』『ズーランダー』『ナイトミュージアム』等、ベン・スティラーと数々の共演をしてきたプライベートでも親友であるオーウェン・ウィルソンがリックを演じる世界線も容易に想像できるし、物語上のカタルシスともよりマッチして観てみたかった。


というように、終始下品なギャグのつるべ落ちながら、透けて見えてくるメッセージは意外とバカに出来ない。
出演するキャスト陣は当時脂が乗った時期の、勢いも相まって良い。
なので自分は大変満足でした!

そんな大層なメッセージ性ある映画ではないけどね!(念押し)笑
ジャン黒糖

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