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偶然と想像のDickのレビュー・感想・評価

偶然と想像(2021年製作の映画)
3.5
1. はじめに1:濱口竜介監督との相性

❶濱口竜介の長編劇映画監督作品は、4本が劇場公開されている。全作をリアルタイムで観ているが、マイ評点は下記の通りで、全体の相性は「良好」である。

【長編劇映画:4本】

★濱口作品の特徴は、3時間~5時間に及ぶ大長尺が多いこと。日本人監督としては異例である。
★下記①(179分)は、マイベストで申し分ないが、③『ハッピーアワー』(317分)と、④『親密さ』(255分)は冗長すぎて無駄が多いように感じた。

①『ドライブ・マイ・カー(2021)』監督脚本/179分/2021.08公開/2021.08.24鑑賞/100点4B〇★★★★★/本作/♣受賞:カンヌ国際映画祭脚本賞、全米映画批評家協会賞脚本賞・監督賞・作品賞・主演男優賞、ニューヨーク映 画批評家協会賞、ゴールデングローブ賞外国語映画賞。
♥4作中のマイベスト。

②『寝ても覚めても(2018)』監督脚本/119分/2018.09公開/2018.09.11鑑賞/60点3B★★★/♣商業映画デビュー作
♥4作中のマイワースト。主人公の朝子(唐田えりか)に共感出来ない。ただの自己中女としか思えない。

③『ハッピーアワー(2015)』監督脚本/317分/公開/2016.02.05鑑賞/70点3B★★★☆/♣ロカルノ国際映画祭最優秀女優賞
♥5時間超の異色作だが尺が冗長で長すぎる。ストーリーに納得し、共感するが、褒めることは出来ない。

④『親密さ(2012)』監督脚本/255分/2013.05公開/2016.04鑑賞/85点4B〇★★★★

【短編オムニバス:1本】

❷本作。2021年・第71回ベルリン国際映画祭コンペティション部門に出品され、銀熊賞(審査員グランプリ)を受賞した濱口竜介初の短編オムニバス。
★「最優秀作品賞」に相当するものは「金熊賞」。「銀熊賞」は作品賞以外の主要な部門賞で、「審査員グランプリ(特別賞)」、「監督賞」、「俳優賞」、「脚本賞」等がある。

【その他:8本】

❸他に、共同監督のドキュメンタリーが4本、中短編が2本、短編オムニバスが1本、未公開のデビュー作が1本あるが、全て未鑑賞。

2 .はじめに2:私と短編映画

❶一般的に「短編映画(Short Film)」とは、上映時間40分以内の映画を言う。
通常の映画は、90分から120分前後なので、半分から1/3程度の長さである。

❷短編映画は私好みではない。その理由は、通常の映画に比べ、全体としての表現力・説得力が弱いと感じるためである。

❸世界の娯楽映画の最高峰と言われる「アカデミー賞」は、今年で94周年を迎えるが、その歴史を通じて、短編映画が「作品賞」を受賞したことは皆無である。4時間を超える長編が受賞したことはあるが、40分以下の短編の受賞はない。1974年(第45回)からは「短編映画賞」が創設されているが、それは、短編の特徴を生かす為のもので、長編と対抗する為のものではないと思う。長編と短編には夫々の長所・短所があり、両方を両立させることは出来ないのである。

❹どんな名監督でも、120分の傑作を、40分に縮めることは不可能だと思う。もしもそれが可能なら、長編映画は不要な筈である。40分では描き切れないために120分にしている筈である。120分の駄作を40分の傑作にリメイクすることは可能と思う。

❺濱口竜介の3時間~5時間に及ぶ大長尺も同様で、それだけの長い時間をかけないと描き切れないと判断した結果だと思う。

3. はじめに3:私とオムニバス映画

❶「オムニバス映画(Omnibus Film)」とは、独立した短編作品を共通したテーマに沿って集めたもので、「アンソロジー映画(Anthology Film)」とも言われる。
代表例:
①『戦火のかなた(1946伊)』 125分。監督:ロベルト・ロッセリーニ。
★WWⅡに於けるイタリアの6つの戦い。
②『世にも怪奇な物語(1967伊)』 121分。監督:ロジェ・ヴァディム、ルイ・マル、フェデリコ・フェリーニ。
★エドガー・アラン・ポー原作による3つのホラー。
③『夢(1990日)』 121分。監督:黒澤明。
★監督自身が見た6つの夢の世界。

❷オムニバスを構成する個々のエピソードは20~40分の短編だが、「戦争」、「ホラー」、「夢」等の具体的な共通テーマで繋がっているものは、全体としてまとまっている。1本の作品に近い。好きである。

❸オムニバスとよく似た形式に「グランドホテル形式(Ensemble Cast)」がある。これは、独立した短編ではなく、様々な人間模様を持つ複数のキャラクターのストーリーラインを並行して進行させたり、エピソード毎に異なるキャラクターに焦点を当てたりする手法を言う。

❹アカデミー賞作品賞に関しては、オムニバス映画では受賞は皆無だが、グランドホテル形式では幾つも受賞している。

4. マイレビュー

❶相性:上。
★個々には、よくまとまっていているが、夫々の繋がりがないので、全体として散漫になってしまう。

➋時代:現代。

❸舞台:第1話は東京。第2話は特定されないが、関東の大学。第3話は仙台。

❹考察1:「偶然」
①映画や小説の世界では、100年経っても起こらないような、作り手にとって都合の良い「偶然」が、短期間に何度も起きる(笑)。特に、TVドラマの場合にはそれが顕著である。
②まあ、それがエンタメの楽しい側面であることは否めないが、度を過ぎると白けてしまう。
③本作にも3つの「偶然」が登場するが、違和感なく納得出来る。

❺考察2:「短編オムニバス」
①本作は全長2時間が、3つの独立した話で構成されている。1話平均40分である。
②3話の登場人物は独立していて、相互関係はない。共通するのは、「偶然」をテーマにしていることのみである。
③3つの短編は、個々には、よくまとまっていて、なるほどと納得する。
④本作の3つの短編は、他の40分の短編作品に比べると、出色の出来栄えだと思う。
⑤しかし、120分の1本の映画として見ると、個々の3つは夫々の繋がりがないので、全体としてのまとまりが散漫になってしまって、訴える力が弱い。
⑥同じ「短編オムニバス」であっても、上記3.❶のように、「戦争」、「ホラー」、「夢」等の具体的なテーマで繋がっているものは、全体として共通性があり、まとまっている。納得出来る。
⑦しかし、本作のように「偶然」と言う抽象的なテーマでは、共通性が伝わってこない。
⑧本作を120分の1本の映画として見た時、濱口竜介の他の長編劇映画監督作品と比較すると、ランクは低い。
⑨本作のような3つの物語を、どうしても入れたければ、『パルプ・フィクション(1994米)』のように、登場人物が繋がるグランドホテル形式の群像劇にすれば、全体としての満足が得られたのではないかと思う。

❻まとめ1:3つの話の満足度順位
①第2話『扉は開けたままで』73点/4B〇★★★☆
②第3話『もう一度』70点/4B★★★☆
③第1話『魔法(よりもっと不確か)』60点/4B★★★

❼まとめ2:一番気の毒なキャラ:
全体を通じて一番同情したのは第2話で芥川賞を受賞した瀬川教授。
常に部屋の扉を開けたままにして、公明正大を旨としていたのに、ハニートラップを仕掛けられ、相手がメールの宛先を間違えて 「segawa@」とすべきを「sagawa@」としてしまったため、破滅してしまう。逆恨みは怖い。

❽総合まとめ/結論
①本作は「オムニバス映画」としては良く出来ている。
②「オムニバス映画としての小さな土俵」なら、優勝の可能性がある。
③しかし、「映画全体としての大きな土俵」なら、殊勲賞や敢闘賞は取れても、優勝の可能性はない。
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