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ほかげのDickのレビュー・感想・評価

ほかげ(2023年製作の映画)
4.0
1.はじめに:塚本晋也との相性

❶塚本晋也の長編監督作品中、劇場公開されたものは、本作を含め15本ある。
❷内、12本を観ているが、マイ評価は最高が『野火』の95点、最低が『悪夢探偵』と『悪夢探偵2』の20点で、落差が大きい。
❸全体としての相性は「中」。

①1989年 鉄男(てつお) ♥マイ評価60点
②1991年 ヒルコ 妖怪ハンター ♥マイ評価60点
③1991年 鉄男II/BODY HAMMER ♥マイ評価60点
④1995年 TOKYO FIST 
⑤1999年 双生児 GEMINI
⑥2000年 BULLET BALLET バレット・バレエ 
⑦2002年 六月の蛇 ♥マイ評価60点
⑧2004年 ヴィタール ♥マイ評価80点
⑨2006年 悪夢探偵 ♥マイ評価20点(ワースト)
⑩2008年 悪夢探偵2 ♥マイ評価20点(ワースト)
⑪2009年 鉄男 THE BULLET MAN ♥マイ評価30点
⑫2011年 KOTOKO ♥マイ評価40点
⑬2014年 野火(2014)  ♥マイ評価95点(ベスト)
⑭2018年 斬、 ♥マイ評価40点
⑮2023年 ほかげ ♥マイ評価80点

2.マイレビュー

❶相性:上。
★前作の『斬、』が合わなかったので、危惧していたが、本作の出来栄えに一安心、満足。
★戦争の悲劇を描いた映画は、古今東西、数多くあるが、本作もその一つ。

➋時代:昭和20年の終戦(敗戦)直後。

❸舞台:特定されないが関東の地方都市。ロケ地は埼玉県深谷市。

❹考察:統計に含まれない戦争の悲劇
①戦争は、勝っても負けても多大の犠牲者が出る。戦いが終わっても、その悲劇に終わりはない。
②本作では、終戦(敗戦)直後の寡婦の居酒屋と闇市を舞台に、戦争で傷ついた4人の男女が必死にもがきながら生きようとする様が淡々と描かれる。
③主人公の女(趣里)は、戦争で夫と子供を亡くし、半焼けになった小さな居酒屋で1人で孤独に暮らしている。そして生きるために売春をしている。
④前半は、そんな彼女に、戦争孤児の少年(塚尾桜雅)、元教師だったトラウマを抱える若い帰還兵(河野宏紀)等が関わり、戦争の傷をあぶり出す。
⑤後半は、少年が持っていた拳銃を求めて、片手が不自由な謎の男(森山未來)が関わる。軍人だった男は、捕虜や仲間を殺すことを強要した上官が、のうのうと平和に暮らしていることに対する復讐が目的だった。
★男の行動に共感する。
⑥その後、帰還兵は、気力を無くして生きる屍のようになってしまう。
⑦主人公の女も、病気(特定されないが、顔に発疹(ほっしん)が出ているこから、売春に起因する「梅毒」と推定)に侵され、生存の見込みが無くなる。
⑧一番生命力が強いように見えた少年も、闇市のどこかへ消えてしまうシーンで幕を閉じる。
★少年は逞しく生き延びていると信じたい。
⑨戦争の悲劇に終わりはないのだ。
⑩310万人(内、民間人は80万人)もの日本人が死亡した戦争の指導者に対し、日本は責任を明確にしていない。本作は、そのことに対する塚本晋也の怒りが込められていると思う。
⑪本作の弱点:
コアとなる4人中、主人公は寡婦(趣里)となっている。前半は、彼女に少年(塚尾桜雅)と帰還兵(河野宏紀)が関わる構成で、異論はない。
しかし、後半に登場する謎の男(森山未來)は、監督の意見を代弁している重要人物と思えるが、主人公の寡婦との関りがない。だから、一連の流れが途切れてしまうのだ。全員に繋がるのは、少年のみである。少年が全体を繋ぐ狂言回しとなっているのだ。
しかし、この少年を主役には出来ないので、別の面での工夫が欲しかった。
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