Dick

PERFECT DAYSのDickのレビュー・感想・評価

PERFECT DAYS(2023年製作の映画)
4.0
1.はじめに:ヴィム・ヴェンダースと私

❶1945年デュッセルドルフ生れのヴィム・ヴェンダースと私は、他の監督にない共通点がある。
①一つは同じ歳であること。
②もう一つは、私の娘一家が、デュッセルドルフ在住で、相互往来があり、私の延べ滞在日数が3ヶ月を超えていること。

❷ヴィム・ヴェンダースの長編監督作品は、劇映画(20本)とドキュメンタリー(8本)を合わせて、28本が劇場公開されている。ドキュメンタリー多いのが特徴で29%を占める。

❸その内、12本を観ているが、マイ評点は下記の通りで、トップの95点からワーストの30点まで、バラツキが大きい。全体の相性は「上の下」といったところ。本作は80点。

①都会のアリス(1973)
②さすらい(1975)
③まわり道(1975)
④アメリカの友人(1977)
⑤ことの次第(1982)
⑥ハメット(1982)
⑦パリ、テキサス(1984)★カンヌ国際映画祭・パルム・ドール受賞 ♥マイ評価80点
⑨東京画(1985)(Doc)
⑩ベルリン・天使の詩(1987)★カンヌ国際映画祭・監督賞受賞 ♥マイ評価80点
⑪都市とモードのビデオノート(1989)(Doc)
⑫夢の涯てまでも(1991)
⑬時の翼にのって ファラウェイ・ソー・クロース!(1993) ♥マイ評価80点
⑭リスボン物語(1995)(Doc)
⑮エンド・オブ・バイオレンス(1997)
⑯ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ(1999)(Doc) ♥マイ評価70点
⑰ミリオンダラー・ホテル(2000) ♥マイ評価60点
⑱ソウル・オブ・マン(2003)(Doc)
⑲ランド・オブ・プレンティ(2004)
⑳アメリカ,家族のいる風景(2005) ♥マイ評価80点
㉑パレルモ・シューティング(2008) ♥マイ評価60点
㉒Pina ピナ・バウシュ 踊り続けるいのち(2011)(Doc)
㉓もしも建物が話せたら(2014)(Doc) ♥マイ評価95点
㉔セバスチャン・サルガド 地球へのラブレター(2014)(Doc)
㉕誰のせいでもない(2015) ♥マイ評価70点
㉖アランフエスの麗しき日々(2016) ♥マイ評価30点
㉗世界の涯ての鼓動(2016) ♥マイ評価80点
㉘PERFECT DAYS(2023) ♥マイ評価80点

2.マイレビュー

❶相性:上。

➋時代:現代。

❸舞台:東京・渋谷。

❹考察とまとめ:
①役所広司演じる主人公の平山は、東京スカイツリー近くの下町の古アパートで一人暮らしをするシルバー男性。判で押したような規則正しい毎日を送っている。
★ヴェンダースが敬愛する小津安二郎の傑作『東京物語(1953)』の主人公夫婦の姓が「平山」なので、オマージュと思われる。
②職業は、トイレ清掃員で、受け持ちは東京・渋谷にある十数ヵ所の公共トイレ。
③平山は公務員ではなく、「THE TOKYO TOILET」というプロジェクト団体に所属。軽のマイカーを業務用に使用していて、自身が考案した「清掃の為の七つ道具」を積み込んで効率化を図っている。
★後から調べたところ、「THE TOKYO TOILET」とは、東京都渋谷区内17カ所の公共トイレを新しく生まれ変わらせるプロジェクトで、日本財団が運営し、世界で活躍する16人のクリエイターがそれぞれのトイレをデザインしている。
④本作の特徴は、普段、市民が見ることのないトイレ清掃のイロハとノウハウが具体的に描かれていること。
★便器の死角になる部分を手鏡で見て確認したり、洗剤を使い分ける等々は、プロでないと分からないことを教えてくれる。
⑤もう一つ、最大の特徴が、最新鋭の公共トイレが幾つも登場したこと。その中に、ガラス張りで普段は中が見えるが、人が入って鍵をかけると不透明になる優れものがあった。
★原理は2014年に「ボーイング787」に採用された「電子シェード」と同じ。一般の航空機は「物理的なシェード」を上下させるが、「ボーイング787」の場合はボタンを押すと、窓ガラスの明るさが変わる。このガラスには電気が流れると不透明になる特殊な材料(電子ゲル)が使用されており、ボタンを押すとそこに電気が流れ、窓が暗くなる。逆に明るくしたいときは、電圧を除くと透明に戻る。この装置はアメリカで、自動車用自動防眩ミラーを開発した「Gentex社」の技術を生かしている。私は、定年後日本法人に数年間勤務ていたので、詳しい情報を知る機会があった。
⑥本作は主人公・平山の毎日の生活が数週間描かれるだけで、ドキュメンタリーを観ているような感じだが、平凡なようでも、新たな出会いや発見があり、平山にとっては、毎日が新鮮なようである。それが、役所広司の表情や動作から読み取れる。これが一番の長所である。
⑦平山を巡るエピソードに関しては、行間を読む必要があるが、そこに自分で推測する楽しみがある。ロジック上の矛盾はなく、納得出来る。
Dick

Dick