Kachi

偶然と想像のKachiのレビュー・感想・評価

偶然と想像(2021年製作の映画)
4.2
【距離感と曖昧さ】

タイトル通り「偶然と想像」を通奏テーマとした短編3部作。役者の長台詞が多く、はじめは不安になったが徐々に癖になっていった。会話だけでここまで物語が揺さぶられるのは、最近ハリウッド映画ばかり観ていたのでかえって新鮮だった。

「ドライブ・マイ・カー」では村上春樹原作を再構成することで手腕を発揮した濱口監督が、本作ではいろんな表現方法を意欲的に試しているといった印象を受けた。

一作品目のラストで見せた大胆な巻き戻し心理描写しかり。二作品目の官能的な描写の朗読を通した、作家の変態性の曝露しかり。三作品目の互いの勘違いを許容しながら作品の中で役者が「勘違いさん」をメタ的に演じることしかり。

コロナ禍で人との偶発的な出会いが極端に減ったことは、人と人との距離感を再考する一つの機会になったようにも思う。作中の人物が織り成す、各々の他者との取り方は、側から見てると滑稽でもあり、またそれが人間なのだなと思えてくる。

また、一作品目と二作品目に通底するテーマとして、曖昧さの許容があったように思えた。元カレに揺さぶりをかける蠱惑的な彼女は、元カレとの曖昧な会話の中に酔っているようにも、また苦しんでいるようにも見えたし、二作品目の先生と学生(既婚者)の会話で先生が美徳と語っていたことはまさに「曖昧さを抱きしめる」ことであった。

人を選ぶ作品ではあるが、ウィットの利いた短編作品はいずれも私たちの弱さや醜さを「笑える」作品たちであり、観劇中も笑いが起きていた。
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