さよこ

対峙のさよこのレビュー・感想・評価

対峙(2021年製作の映画)
3.9
【fansvoice試写会で鑑賞🎥】
アフタートークでは、加害者と犯罪被害者の関係性についてのお話があって、かなり興味深かったです(後述します📝)

💐全体の感想
ドキュメンタリーのような撮り方をしていて、当事者たちが出演してるのかと錯覚するほど台詞や表情、仕草までもがとてもリアル。ヒリヒリしっぱなしの111分。緊張感が凄い。

💐台詞のチカラ
密室で行われる両親たちの会話。その途中、銃を乱射している様子が語られ、スクリーンには映し出されていないのに、なぜか目の前に凄惨な教室がくっきりと浮かんだ。まるで自分がその現場を目撃したかのように。台詞だけで投影させるの凄い。

💐学び
この映画を通じて、被害者と加害者を向き合わせる社会的なプログラムについて知るきっかけになった。そして、どん底にいながらも生き続ける人間の逞しさを感じた。

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📝ここからはアフタートークレポ
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この日のゲストはジャーナリスト/金平茂紀さんとドキュメンタリー映画監督/坂上香さんでした🙌
この映画のテーマである『修復的司法』についての話がメインになるので、映画から学びたい人は読み飛ばしてください🙏

💐設定
被害者家族と加害者家族が話し合うこと自体が、自分にとっては衝撃的な設定だったけど、実はアメリカでは『修復的司法』といって、割とポピュラーな取り組みらしい。

💐修復的司法とは
ゲストの坂上さん曰く、修復的司法は1970年代のカナダが発祥。犯罪自体を''損害''と捉え、加害者、被害者、そして地域が話し合って、今後同じ事件が起こらないように解決策を探るプロセスのこと。多くの場合、民間の団体が間に入り、事件が起こった数年後に開催される。一般的には当事者の他にファシリテーターが参加するそうです。

💐日本の司法制度
今の日本だと『被害者感情を代行するのが司法の役割』という考えが根強い。しかし、より良い社会にするためには、報復感情を晴らすだけでは解決にならず『なぜこういった犯罪が生まれたのか』社会や環境からのプロセスを紐解いていくことが大事になってくる。実際、2000年代には日本でも少年犯罪に限定して『修復的司法』を取り入れ、良い効果をもたらしているというエビデンスもあるが、何らかの事情により今は実施されていないらしい。

💐被害者の心情
ゲストの金平さんは、1980年に起きた『新宿西口バス放火事件』を例に挙げた。多くの被害者が出たこの事件、社会に不満を持ったホームレスの犯行だった。身体の80%に火傷を負った被害者の一人は、犯人が逮捕されたあと積極的に犯人と交流を持ったそう。被害者のなかには『なぜ自分はこんな目に遭ったんだろう』『加害者のなぜこんなことをしたんだろう』を知りたいと思う人が一定数いるんだとか。
そして、金平さんも「日本では加害者の親が自害するケースが一定数ある。けれど、それでは社会的は変わらない。加害者がどういった環境で育って、どんな人格形成をされたのかなど、加害者側を理解する機会を積極的につくる必要があって、それが同じことを繰り返さないための社会作りに繋がるのではないか」と語った。

💐制作のきっかけ
以下、司会者の方が教えてくれた制作秘話⇩
本作品の監督が10代だった頃、コロンバイン高校銃乱射事件が起きた。アメリカは今でも年間400-600くらいの銃乱射事件が起きていて、こうした銃乱射事件のニュースは、子どものいる父親という立場になると以前とは違う感じ方になっていて『こうした事件を繰り返さないためにはどうしたらいいか』『こうした社会で生きていくにはどうしたら良いのか』を考えるようになり、映画を作るきっかけになった。

💐印象的な言葉
アフタートークのなかでとても印象的だったのは坂上さんの仰った『法律も社会も、他者に対して赦すことを強要してはいけない。赦すかどうかはその人自身(被害者)が決めることだから』という言葉。ストンと腹落ちした。謝ったからいいじゃんとか、弁償したからいいじゃん、て思えるほど人間の気持ちって単純なものじゃないよねって思って。悲しい気持ちも、憤る気持ちも全部その人だけのものだ。

💐余談
アメリカのハイスクールにおける銃乱射事件についてトランプ元大統領は『学校の教師が銃の取り扱いを覚えたら良い』というこぼれ話があって、修復的司法とは真逆の考えだねって言ってた。トランプさんの発想も凄いな…。

この映画のテーマでもある『修復的司法』について、自分は初めて知ったので、もしかしたら前提知識があったほうが理解がしやすいかもしれないなと思いました。

最初どっちが『加害者側の親』なのか分からずセッションが始まるので、予告でちゃんと把握してから観たほうがゴチャつかずに良いかもと思いました🙌

スコア&レビューの続きは公開後に追記します🙏

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⚠️この先、ネタバレあります⚠️
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💐印象的だった台詞
『それでも愛してる』

💐二組の両親
日本の場合、こういう猟奇的な事件を子どもが起こしたとき、両親が謝罪したり、自○したり、何かで償う姿勢が強いなと思っていて、そのつもりで本作をみてしまったので見事に(ありもしない)ミスリードに引っかかった。第一声が『お元気?』だったり、鉢植えをプレゼントしたりという一連の流れで、最初は加害者と被害者を逆に捉えてしまったんだよね。被害者側が、加害者側の良心の呵責を慮って、思い詰めないでと気遣ってるのかと思ったの。違ったや。

💐加害者両親のスタンス
加害者の親(特に父親)の態度やスタンスに、なんだか違和感を覚えながら観ていたんだけど、話が進むにつれてなんとなく二人の価値観が見えてきた。きっと、大事件を起こしたのはあくまで息子で、自分たちは犯罪者ではない・別人格であるというスタンス。事実としてそれは正しい。さらに、一人の息子を持つ''親の立場''で考えているから『息子を失ったのは我々も同じ』と被害者遺族に平気で言えちゃうんだろう。奪った側なのに。自身の息子を失った喪失感は、被害者遺族と同じなんだと呼びかけているシーンは、理屈は理解できてもどうしても心がついていかなかった。大きな声で否定したくなった。でもこういう加害者側の視点も蔑ろにしちゃいけないんだろうなと1ミリの感情もわかないままぼんやり思った。

💐加害者(父親)
母親が子供目線で思い当たる節を話しても、片っ端から『そんなことはない』『引っ越して正解だった』と否定していく。被害者家族が抗議をしても『それは分かってる』『(言われなくても)知ってる』と張り合ってしまう。我の強くて、他者への共感力が圧倒的に低い。そりゃぁ…あんた…子どもは鬱屈としちゃうよと思った。最後まで『被害者遺族のカウンセリングに''協力''してあげてる立場』だと思ってるのもけっこうイタい。この期に及んでまだ自分優位でいたいんだなと思った。父親不在で対談したらもっと違う展開になったかもしれない。後日談でも良いので、母親たちの交流も描いてもらいたかった。

💐教会スタッフ
教会スタッフが場違いなくらいノーテンキで、このキャラクター的にどうなんだろと思ったけど、もしかしたらこれが一般的な世間の反応なのかもしれないと思った。6年前の事件で時間が止まってる当事者たちと、6年前の事件は記憶にある程度で元の日常に戻った人。どんなに凄惨な事件があっても、社会は前に進み続けてるんだよね…。

💐その他、いろいろ
・全部終わったあとに打ち明けるのズルくない?
・シャイで優しい⇔家庭では暴力的
・人気者⇔イジメられていた
・裁判や弁護士とのやり取り知りたかった
・植木鉢からなんかおちたような…🤔
・前に進みたいから『○す』という選択。

【余談1】
銃乱射事件の防止CMを思い出した。
https://youtu.be/A8syQeFtBKc

【余談2】
そういえば神戸で起きた事件の少年Aも、その親も本を出版してる。読んでないのでどんなことが書かれているのか不明だけど、あれも『修復的司法』のつもりで出したのかな。だとしても''出版''という形式は若干モヤる。

【余談3】
個人的には『サムの息子法』も気になる。

以上です🙌
さよこ

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