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ボーはおそれているのMASHのレビュー・感想・評価

ボーはおそれている(2023年製作の映画)
2.5
狂気的だの悪夢だの『ミッドサマー』超えだの、アリ・アスター監督は異常だのSNSで大袈裟な感想が溢れかえっているが、個人的にはそこまでの作品には思えなかった。全く観るべき点がないとかではないが、これ見よがしな内容の連続に辟易したというのが正直なところ。

『ミッドサマー』で薄々思ってはいたが、彼の作品における"狂気"は意図的な部分が強く感じる。今作は特にそう。観客に不快だとか悪夢的だと感じてほしいという意図が隠しきれていない。それはそれで別に良いのだが、それを3時間というのは監督のドヤ顔が画面の向こうに透けて見えてイラッとしてくる。

精神的に不安定な人物の主観で全てを描き、俯瞰的な視点を持つ他者の介入、あるいは現実の介入をさせない作品というのはさほど珍しいものではない。なんなら『カリガリ博士』からやっていること。また、一つの目的を持った主人公の旅路を描く中で、その道中で不思議な出来事が数珠繋ぎのように起こり、狂気の渦に呑まれていくという展開。これは『地獄の黙示録』なんかがそうだし、もっと言えばあれも『闇の奥』が原案だ。あと、ユダヤ教をテーマにした、理不尽さをコメディにする要素もコーエン兄弟に似たものを感じる。

上記の要素が含まれていること自体が悪いわけではない。監督も参考にした映画挙げているらしいし、むしろそういう映画からの影響は受けざるを得ないだろう。そこから何か一歩踏み込んでいれば尚のこと良い。だが、この映画はさほど珍しい題材ではないのに、これ見よがしに描いているのが個人的に気になったのだ。

ホアキン・フェニックスの演技から、演出も映像も音楽も全てが大袈裟で仰々しい。かと言って衝撃の連続で目を離せないというわけでもなく、3時間という長さに見合わない内容で正直退屈。主人公の精神状態や母親との関係もそこまで理解し難いものではなく、なんなら最後で割と説明してしまってるのも「なんだかな」という感じ。

あと、これは本当に個人的な印象にすぎないのだが、精神的に不安定な人々をどこか嘲笑的に描いているように見えてしまってしんどかった。そういった人々にシンパシーを感じ彼らを描いたというより、単に面白いからそうしたという印象。PTSDを抱えた退役軍人の描き方なんかが特に。

不安障がいやトラウマといったものに向き合うというテーマを、ナンセンスなコメディやホラーに昇華するというのは映画の描き方の一つだ。だが、そこにあるのが真の理解なのか、あるいはただの興味本位や観客の気を引くための道具なのか、そこの境界線は大事だと思う。この監督にどういう過去がありどういう想いで作ったかは定かではないので、確実にこうであるとは言えない。しかし、3時間という長さの中で個人的には良い体験ができたとは言い難い作品だった。
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