犬たろ

ボーはおそれているの犬たろのネタバレレビュー・内容・結末

ボーはおそれている(2023年製作の映画)
4.9

このレビューはネタバレを含みます

奇を衒った映像も、虚を突く物語の構成も、抜群に面白かったにもかかわらず、ボー(ホアキン・フェニックス)が兎にも角にも可哀想で居た堪れない。

すなわち、作品として好きか嫌いかで分類すれば、腹が立つほど大嫌いだ。ボーの扱い方が惨いにも程があるものの、それが制作者側の狙いであるのだからどうしようもない。

アリ・アスター作品の『ミッドサマー』『ヘレディタリー/継承』どちらも虫唾が走るほど嫌いだったが(後者は演者が素晴らしかった)、今作の予告編を初めて観たとき「うん、これはきっと良さそうだ。今度こそ唸らせてくれるだろう」と胸を躍らせた。

しかし、上でも述べたように今作は抜群に面白い出来でありながら終始報われないボーの扱い方に、こちとら腸が煮え返る思いに駆られ、終いにはエンドロールで頭を抱えた。ついでに尻も限界を迎えた。

ただ、一点。

物語の早い段階で、ボーの睾丸が腫れに腫れていたそれを、さりげなく露呈させて布石として打ったアリ・アスター監督の巧妙な罠に、私はおそれていた。

物語もいよいよクライマックスに突入するであろう気配を薄らと漂わせてきたところに現れた、思慕を寄せる女史との再会に現を抜かすボー。そして、私。

ボーは渾身のセックス(女性上位)で歓喜の雄叫びをあげたのちに懇々と感謝を述べれば、相手の女史もたまらずオーガズムに歓喜した性描写は、モザイクがなければ私は落涙したかもしれない。

「ボー、えかったのう。コンドームを突き破るほどの精液が出たんじゃろ。そりゃあえかったえかった。そんだけ溜まりに溜まっとりゃあ、えらいしんどかったじゃろうね。ボー、バチクソ幸せそうじゃんか。ホンマにえかったねぇ…」

なんて思ったのも束の間。

「ん?なんか様子がおかしいんじゃけど…えっ!?ウソじゃろ!?待て待て、ボーの母ちゃん怖いって!!」

嗚呼、もう腹が立ってしょうがない。観客の気持ちを弄ぶあなたは、神にでもなったおつもりでしょうか。

いいえ、違います。あなたは神になったと勘違いした、虫眼鏡で蟻をいじめる男の子ですよ。あんまり調子に乗りなさんなよ。

でも、これはこれで、彼の手のひらの上で転がされている証拠なんだと、納得せざるを得ない。

とどのつまり、なんだかんだ言いつつ結局は、物語の随所に巧妙なあざとい罠を散りばめながら、奇を衒った稀有な映像体験を提供してくれる、憎たらしいほど愛おしいアリ・アスター監督を、私はおそれている。

p.s.

セックスで人が喘ぐのは、演技か否か。

オーガズムであれほど歓喜に喘ぐエレーヌ(パーカー・ポージー)のような女史は、何処へ。
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