たく

ヘカテ デジタルリマスター版のたくのレビュー・感想・評価

3.7
第二次世界大戦前夜のフランス植民地の北アフリカで、謎めいた人妻との情事に溺れていく外交官の話。中近東の音楽が流れる退廃的なムードに男女の激しい情事が包み込まれて、不毛な愛に嵌った男の醜悪さを引き立たせてた。タイトルの「ヘカテ」は夜を司る古代ギリシャの女神で、ローレン・ハットンの端正な美貌がつかみどころのない役にハマってた。ベルナール・ジロドーは、調べたら大昔に観た「キリング・タイム」の刑事役で、何とも懐かしい。全体に重厚な映像に深みがあり、本作が初鑑賞となるダニエル・シュミット監督作品は他にも観てみたい。

1942年のベルンのパーティー会場にいるフランス大使のロシェルが、その昔に狂ったように燃えた人妻との情事を回想していく。第二世界大戦開戦前夜、北アフリカのフランス植民地にロシェルが赴任し、孤独に暮らすクロチルドという女性と知り合い男女の関係となる。このクロチルドが自分の身の上を全く話さない謎めいた女性で、その神秘性に惹かれたロシェルがどんどん深みにはまっていく様子が何とも醜悪。セックスの直接的描写が出てきて、特にワルツのリズムに合わせて行為をするシーンでクロチルドの胸が少しずつはだけていくところのエロチシズムがすごかった。

ロシェルがクロチルドのことを理解しようと執着すればするほどクロチルドがロシェルから離れていき、彼が不在がちなクロチルドの所在を訪ね歩くなかで、ロシェルに現地語を覚える気が全くないので現地人と話が全然通じないところに彼の高慢さが顕れてて滑稽そのもの。ついには領事館の仕事を放棄して無精ひげを生やしながらどうしようもなく溺れていき、クロチルドが親しくしてた現地の少年を嫉妬からレイプしちゃうという、理性を失った人間の怖さが露わになる。それ以前に、そもそもこの地で児童売春が日常的に行われてるのがおぞましい。クロチルドを愛し過ぎたロシェルに彼女を崖から突き落とす妄想が一瞬浮かぶシーンがゾッとさせて、ついに左遷となったロシェルがシベリアでクロチルドの夫を訪ね、彼も自分と同じ傷ついた男であることを知る。シーンが冒頭のベルンに戻ってからのクロチルドとの再会、そしてまるで彼女が幻であったかのような呆気ない別れが虚しい余韻を残す。
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