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⻤太郎誕生 ゲゲゲの謎のRickのレビュー・感想・評価

⻤太郎誕生 ゲゲゲの謎(2023年製作の映画)
5.0
 搾取する者たちが語る美談が席巻する中で、踏み躙られた者、奪われた者、虐げられた者たちの魂や物語は蓋をされ、なかったことにされてしまう。その「弱きものたち」を語り継ぎ、忘れないようにするための抵抗の手段が、妖怪話であり、怪談である。怖さとは、自らが踏み付けにしているだろう者たちによる怨念への無自覚の畏れである。恐怖するからこそ、過去の怨霊に鎮まりたまえと願い、未来を良きものにするため努力するのだ。自分たちの生み出してしまった業を全て受け入れ精算し、後の世代へ残さないようにしなければならない。鬼太郎とは、この妖怪の子とは、それを常に我々に突きつける。過去を忘れ、誰かを踏みつけ、傷つけてはいまいかと。人であることを忘れてはいまいかと。これから生まれる子どもたちが生きる世界が、人という名の化物たちが蠢く悲惨な世界になってはいまいかと。
 鬼太郎のオリジンと聞いても、そこまでゲゲゲに触れたことがなかったため、さほど気にも留めていなかった。ただ、「戦後」を描くと知った時、鬼太郎という素材であれば逃げずに負の遺産も扱うのではないかと思った。予感は当たった。それどころか突き抜けてきた。戦中、戦後を清算するだけではない。今の我々にも、何も変わっていなことを示す。まさに現代の怪談としての役割をしっかり果たしている。因果や業、醜悪なものと向き合って戦い、未来への希望は決して捨てない。なんと格好良い、成熟した物語であろうか。
 水木とオヤジのバディものとして、横溝正史的な因習村ものとして、鬼太郎特有の妖怪アクションものとして、それぞれが本当に奇跡的なレベルの高さを維持しており、それぞれがきちんと有機的に噛み合っている。関俊彦のオヤジはあまりにも、色気がありすぎはしないか。それぞれの声優さんも素晴らしい。
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