真世紀

⻤太郎誕生 ゲゲゲの謎の真世紀のレビュー・感想・評価

⻤太郎誕生 ゲゲゲの謎(2023年製作の映画)
4.7
鬼太郎の父親、目玉のおやじと帝国血液銀行行員の水木を主人公にしたプリクウェル(前日談)。現在パート、廃村・哭倉村を訪れた廃刊間近の雑誌記者の前に姿を現して警告する鬼太郎と猫娘、目玉のおやじ。

本編は昭和31年の同村に遡る。村に君臨どころか、日本の政財界にも影響を及ぼす龍賀一族の当主・時貞が死去。後継者に取引先の龍賀製薬社長で、同一族の娘婿の克典が就任するのではと、一行員の水木は自らの出世のために買って出て、秘境の同村へ向かう。龍賀製薬はかつて日本帝国軍にも提供されていた秘薬「M」の製造元。その秘密を探るのも課せられた使命だった。

そして、水木は村に到着して一族の娘・沙代と知り合い、社長の伝手もあり、当主の遺言を開示する場にも立ち会う。しかし、遺言で指名されたのは長男・時麿だった。という場面はもう皆さん、御指摘の通り、横溝正史『犬神家の一族』を思わせる。長男の時麿の平安貴族かよという格好も『獄門島』の白拍子姿の男女転換バージョンだよね。

やはり、村に姿を見せ、取り押さえられた余所者・仮称「ゲゲ郎」(実は同じ幽霊族の妻を探しに村へ来た後の目玉のおやじ)と共に後継者のはずの時麿をはじめとした一族の連続殺人、そして、村の謎に迫る。

前述の横溝正史モチーフの助けを借りながら、ちゃんと原作設定に着地する脚本の手腕は見事。主人公・水木の戦争体験、玉砕発表をしたのに生き残った兵員らが再度の突撃を命じられ、かつ、共に突撃をするはずの参謀は本部に報告の義務があると同行拒否という下り、そして、その大義をかざしての振る舞い、構造は戦後にも継続という描き方は素晴らしい(本作上映劇場での予告編観た限り、特攻隊賛美にいまだ踏みとどまってる某作品比較で)。

直接描写こそなくとも一族の闇への描写(なお、登場人物はそれを知り、リアクションで嘔吐するほどだけど、自分的には、あー、ぐらいだった所で自らのゲス具合を知らされるという、自爆)。アクションシーンも、そして、鬼太郎のみならず、様々な鬼太郎アイテムのオリジンも盛られる。

水木しげる生誕百周年を祝うのにふさわしい、これは傑作でした。
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