いの

クレッシェンド 音楽の架け橋のいののレビュー・感想・評価

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予想してた内容とは随分違うてた。はいはい、どうせ安易なお涙頂戴映画なんでしょう、感動のラストに向かうんでしょう、でもアタシもどうせ甘ちゃんだからなー、ちょっと面倒いけどせっかくだから行ってみようかいねー とナメてましたが、思ってたのとは全然違ってた。安易なお涙頂戴など何処にもなかった。


パレスチナ人とユダヤ人、双方が抱える複雑な思いの苦しさを実感した。10代20代の若者たちでも、先祖代々から受け継がれてきた家族の(痛み)の歴史があり、強い不信感が骨の髄まで染み込んでいる。ユダヤ人の若者たちには、テロでの犠牲者が身近にいる。パレスチナ人には、爆撃の犠牲者が身近にいる。検問所では、パレスチナ人に脅威に感じるからこそユダヤ人は高圧的な態度になるし、その高圧的なユダヤ人によってパレスチナ人は尊厳を奪われる。演奏会成功に向けた道のりの険しさも、想像できた。


マエストロは音楽の指導をするのはもちろんだけど、彼等が歩み寄るためのメソッドをたくさん提示した。(そして彼等が歩み寄るほどに、この演奏会のあと、彼等がそれぞれのテリトリーに戻ったその後の人生も、随分と険しいものになるんじゃないかと、わたしは心配にもなった。憎しんでいた方がラクかもしれない。でも彼等には乗り越えていってほしい、と心からエールも送った。)


実話に基づくというクレジットがなかったから、これはフィクションなんだろうけれど、それにしては随分と難しいところに着地したなと。このエンディングでは、あの子に非難が集まってしまうんじゃなかろうか。軽率な行動の代償とはいえ、それはいささか重すぎるようにも感じる。実話とフィクションの配分も気になるところ。フィクションが相当多いのだとしたら、この映画に対する見方はがらっと変わるかも(随分と作為的な映画ということになる)


演奏された曲はいずれもクラシック入門のような曲ばかりで、クラシックにも明るくないわたしにもわかる曲ばかりでした♪ラストのあの曲も良かったです。彼等のその後を想像できる余地がある映画というのはやはり良い映画なんだろうと思う。種は確実に蒔かれた。そう願う。
いの

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